情報発信と教育で海を守る。天草海部のブルーカーボンへの取り組み

当サイトでは、ブルーカーボンの解説記事や日本各地におけるブルーカーボンへの取り組み事例の記事を公開して参りました。

この度、熊本県天草市で海や海洋生物を用いて教育を実施している団体『天草海部』さん(以下、敬称略)の代表である正角雅代(しょうかくまさよ)さんにインタビューの機会をいただきました。

天草海部の活動はブルーカーボンの利用促進を主目的にしたものではありませんが、活動内容の多くは結果的にブルーカーボン生態系の保全につながっています。

本記事では、天草海部が情報を収集・発信している天草周辺の磯焼け対策についてや、ブルーカーボン生態系保全のひとつのアプローチのひとつとして情報発信と教育を行う天草海部をご紹介いたします。

天草海部とは?

熊本県天草市で「海から学び、地域を育てる」を目標に、海に親しみながらその魅力を発信し、これからの水産業を担う人材を育成するグループ。それが『天草海部(あまくさうみぶ)』です。

天草海部では干潟の生物調査、魚市場見学ツアー、海ごみの回収、水産系ガイド育成講座の主催、など海に関連した多岐にわたる活動を通して海の大切さを発信しています。

代表の正角さんは子どもたちが自ら科学的思考を持って考え行動できるようになる事を目標とし、IoTを活用した水温・照度測定システム、ドローン、YouTubeなどの動画メディア、ZOOMなど様々な先端技術を活用して、海を活用した教育やSDGsの啓蒙、水産業のデータ活用などに取り組んでいます。

ドローン、ZOOMなど様々なツールを駆使し情報を発信する

当サイトの姉妹サイト『めだか水産広報部』では過去に天草海部の掲げる目標や理念、活動内容などを詳しく記事にしています。ぜひご覧ください。

ブルーカーボンと磯焼けの関係

ブルーカーボンとは、海藻やマングローブ、サンゴなど海洋生物によって大気中の二酸化炭素を原料とし、海洋生態系に隔離・貯留される炭素を指します。また、それらの生物によって海中に蓄積される炭素固定能を表す場合もあります。

海草藻場(うみくさもば)、海藻(うみも)藻場、干潟、マングローブ林、サンゴ礁などブルーカーボンを隔離・貯留する海洋生物によって構成される生態系は『ブルーカーボン生態系』と呼ばれています。

『磯焼け』によるブルーカーボン消失の懸念

磯焼けとは沿岸の浅海から海藻・海草が著しく消失する現象のことで、現在日本全国で発生している大問題となっています。

日本にはアマモやスガモといった海草(うみくさ)類や、ワカメやアラメ、カジメといった海藻(うみも)類が群落となり、藻場(もば)を形成しています。

磯焼けによってこうした藻場が失われることで、ブルーカーボン生態系の消失、藻場に生息する水産資源の減少、海の生態系への影響が発生する恐れがあります。

藻場は『海のゆりかご』とも呼ばれ、魚類やイカ・タコなどの軟体類など様々な生き物の産卵場所や仔稚魚の生育場所でもあり、ブルーカーボンだけでなく水産上も重要な場所です。

磯焼けの原因には海水温の上昇、沿岸開発による環境汚染、水産資源の乱獲、それらによる環境変化が原因となり異常繁殖したウニや魚類などによる食害などが考えられています。

磯焼けの詳細やブルーカーボンとのつながりについては別の記事で詳しくご紹介していますので、こちらをご覧ください。

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天草で行われた磯焼け対策の実例

天草港

今回天草海部さんのインタビューで伺った、熊本県で実施されている藻場再生事業、磯焼け対策事業について紹介します。

天草は有明海、八代海、天草灘(東シナ海)と3つの豊かな海に囲まれる好漁場です。自然豊かな天草地方でも磯焼けの被害は例外ではありません。

紹介する事例についてはブルーカーボンの活用やブルーカーボン生態系の保全を目的にしたものではありませんが、結果的にブルーカーボンにつながります。

天草漁協御所浦支所でのアマモ場増設

また、天草漁業協同組合御所浦(ごしょうら)支所では、助成金を活用してアマモ場の再生事業を行っています。

御所浦地域のアマモ場は、天草海部のYouTubeで底質調査とデータロガーを用いた水温・照度調査の様子がも公開されています。

アマモ場の造成は難しく、せっかく植えても殖えるどころかそもそも根付かなかったり、水害で流されてしまったりとまだまだ思ったような成果が出るには至っていないそうです。

波の入り方や砂や底質の相性、海の濁り、日照時間や水温など好条件がそろっていないとアマモが定着することはできず、各地で研究が進められている段階です。

そのため正角さんはどこに植えればアマモが定着しやすいか、どのように植えれば効果が出やすいのかといったデータの収集と活用が大切と語ります。

天草のアマモ場

磯焼け対策としてのソフトコーラル駆除の事例

磯焼けの原因は温暖化や開発による生息域の消失、海の栄養不足など様々な説があります。

天草漁協ではウミアザミというソフトコーラル(サンゴの仲間)の大量発生が磯焼けの一因であるとされ、トサカノリやワカメ、クロメといった海藻の水揚げが減り、ウニの身入りも悪くなりました。 

はじめは潜って手作業でウミアザミを一つずつ刈り取って駆除を行っていましたが、そのうちウミアザミの上に遮光シートをかぶせ、ウミアザミに共生する褐虫藻の光合成を抑制することで駆除するユニークな方法をとるようになりました。

結果この方法でウミアザミ駆除が成功し、ワカメやホンダワラ、クロメなど藻場の復活につながりました。アワビやウニの漁場が回復したとも報告されています。

この事例は天草海部が行った天草のうに専門店へのインタビューでも語られています。

情報の発信を続けることで磯焼けの改善に寄与する

アマモ場観察のようす

天草海部代表の正角さんは水産業、教育、環境分野など様々な方面と繋がりを持っていることから、こうした天草周辺各地の情報が集まるようになりました。

そこで感じたことは、みんな磯焼けについては問題だと知っていて気にはしているが、実際に行動している人は少ない。ということ。

アマモ場は日本のブルーカーボン生態系の代表格です。磯焼けの対策は水産業のイメージがあるかもしれませんが、ブルーカーボンにとっても非常に重要な課題であると言えます。

正角さんは紹介したような藻場造成の取材や発信を行うことで、次世代に海の大切さを伝え、未来の海を作っていくこと、これからの海の産業を担う人材を育成し輩出していくことを考えています。

天草海部のWEBサイトは下記のリンクからどうぞ。

取材協力:天草海部 正角雅代様

参考文献