ウニノミクスが挑戦する『持続可能な磯焼け対策』

いま、日本を含め世界中で『磯焼け』と呼ばれる海の環境問題が発生しています。

磯焼けは『海の砂漠化』とも呼ばれ、主として沿岸海域の浅海において海藻・海草が著しく減少または消失し、海底の岩や石がむき出しになっている状態を指します。

この度、ブルーカーボンにとっても重要な問題である磯焼け問題の解決に取り組むスタートアップ企業『ウニノミクス株式会社』日本事業推進責任者の山本 雄万さんにインタビューの機会をいただきました。

本記事では、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」に公式推薦もされたウニノミクス株式会社さん(以下、ウニノミクス)の取り組みをご紹介します。

ウニノミクスとは?

ウニ畜養で磯焼け対策と循環型社会の実現へ(写真提供:ウニノミクス)

磯焼け対策を目的にウニを畜養・販売するスタートアップ企業

ウニノミクスは磯焼け対策を目的としたウニの畜養・販売を行う企業です。

地域と連携し、磯焼けの一原因である異常繁殖した痩せたウニを漁師等から買い取り、それを独自の技術により畜養することで高級品のウニに変えて販売します。

ウニノミクス公式ウェブサイト

ウニノミクス|磯焼けの海を独自技術と循環型モデルで解決します

ウニノミクス。 それは、私たちが抱える環境の課題を、経済的、生態系的、社会的なチャンスにすること。…

2017年1月に設立し、世界規模で磯焼け対策に取り組んでいます。日本国内では2019年にウニ畜養の拠点である『大分うにファーム』を設立、磯焼け対策を目的に商業規模でのウニ畜養事業を行う世界初の事業会社となります。

ウニノミクスが画期的である点は、補助事業に依存した従来の磯焼け対策から、持続可能なモデルにしたこと、つまり環境問題の解決方法に経済性を持たせ単体としての持続可能性を保持した点であると私達は考えています。

世界中の海で問題となっている『磯焼け』

磯焼けとは?

冒頭にも述べたとおり、磯焼けとは沿岸の浅海から海藻・海草が著しく消失する現象のことです。

日本にはアマモやスガモといった海草(うみくさ)類や、ワカメやアラメ、カジメといった海藻(うみも)類が群落となり、藻場(もば)を形成しています。

磯焼けによってこうした藻場が失われることでブルーカーボン生態系の消失、藻場に生息する水産資源の減少、海の生態系への影響が発生する恐れがあります。

磯焼けの原因には海水温の上昇、沿岸開発による環境汚染、水産資源の乱獲、それらによる環境変化が原因となり異常繁殖したウニや魚類などによる食害などが考えられています。

磯焼けの詳細やブルーカーボンとのつながりについては別の記事で詳しくご紹介していますので、こちらをご覧ください。

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磯焼けの現状と対策

磯焼けは世界中で発生している環境問題

国内では現在ほぼ全都道府県で磯焼けが確認されています。規模も大きく、一例を挙げると1990年代に入ってから静岡県榛南海域では8,000haもの藻場が消失したといわれているほどです。

日本の磯焼けの例ていky
日本の磯焼けの例(写真提供:ウニノミクス)

環境問題に国境はありません。磯焼けは実は日本だけの問題ではなく、世界中で発生している大問題となっています。

例えばアメリカ・カリフォルニア州沿岸に生息する巨大なコンブ『ジャイアントケルプ』はウニの食害により近年多大なダメージを受けています。北カリフォルニア350kmに及ぶ沿岸の95%もの藻場が2014年から2016年の短期間に消失したといわれています。ウニノミクスはカリフォルニアの漁業者、大学、NPOと手を組み活動を行っています。 

これから紹介するウニノミクスの取り組みは、日本のみならず世界中で展開されています。

カリフォルニアの磯焼け
カリフォルニアの磯焼け(写真提供:ウニノミクス)

ウニの駆除は行われているものの補助事業がメイン

磯焼け対策として全国各地で増えすぎたウニの駆除が行われていますが、その資金は国や都道府県などから漁協に交付される補助金で賄われているのが現状です。

駆除したウニは廃棄するのが一般的です。もったいないと思われるかもしれませんが、磯焼けの海に生息しているウニは痩せていてほとんど可食部位がなく、まったく値がつきません。

藻場再生の取り組みは短期的に効果が出にくいこともあり、補助事業だけに依存して磯焼け対策を行おうとすると、効果が出る前に助成期間が終わってしまい、活動を継続できなくなってしてしまうこともしばしば。磯焼けの根本的な解決には中長期的に継続的な取り組みが必要であると考えられます。

こうした課題を解決するため、ウニノミクスは必ずしも補助金に頼ることのない持続的な磯焼け対策に挑戦しています。

藻場とブルーカーボンとのつながり

ウニノミクスが取り組むウニの畜養販売とブルーカーボンは分野が異なるように思えますが、私達は密接な関係があると考えています。

海藻や海草によって構築される藻場は、過去に当サイトでも取り上げているように『ブルーカーボン生態系』の一部として重要視されています。

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磯焼けを解決することはブルーカーボンの活用を推進することにもつながります。とくに周りを海に囲まれ、広大な排他的経済水域を持つ日本にとっては非常に重要な課題です。

ウニノミクスの取り組み・ビジネスモデル

ここからはウニノミクスがどんなビジネスモデルなのか、どういった特徴があるかを紹介します。

ウニを畜養して販売する、と聞けばシンプルなのですが、そこには同社による一貫した環境問題の解決に対する姿勢を感じることができます。

調達:漁業者と連携し、磯焼けの海からウニを採取する

現地の漁業者と連携し、磯焼け地域から磯焼けの原因となっている異常繁殖した痩せウニを買い取ります。

漁業者にとっては、これまで廃棄するしかなかった厄介者のウニを買い取ってくれるということで喜ばしい話です。磯焼け対策としてウニの間引き活動も促進されます。

畜養前のウニ。食用としての商品価値は無い
畜養前のウニ。食用としての商品価値は無い(写真提供:ウニノミクス)

畜養:現地に設立した陸上養殖施設でウニを育てる

買い取ったウニは現地に設立した陸上養殖施設で畜養(身質や味の改善のために一定期間給餌する養殖方法)を行います。

畜養段階では、これまでウニノミクスが培ってきた技術が存分に活用されています。

美味しいウニを育てる持続可能な餌

高級なウニが美味しい理由は、美味しい昆布を食べて育っているからとウニノミクスの山本さんは話します。

それも納得のことで、高品質な天然ウニの産地である北海道の利尻や羅臼、浜中などはいずれも上質な昆布の産地でもあります。

ウニに限らず、タイやブリ、マグロなど餌を与えて養殖する水産物は、餌の品質で味が決まるといっても過言ではありません。

ウニノミクスでは90年代にノルウェーで開発されたウニ専用の餌を改良し、持続可能な方法で収穫された食用昆布の端切れを主原料とする餌を日本国内で生産しウニを養殖しています。

ウニ専用の飼料
ウニ専用の飼料(写真提供:ウニノミクス)

魚の養殖において環境汚染のリスクになっていると問題視される魚粉や魚油も使用しないため、環境負荷が低い養殖方法といえます。

さらにウニノミクスの餌にはホルモン剤、抗生物質、遺伝子組み換え素材、保存料などは一切使用していません。

独自のウニ陸上養殖システム

ウニノミクスの生産拠点である『大分うにファーム』では陸上養殖でウニを育てています。

陸上養殖とは、人工的に陸上に作った環境下で養殖を行うことを指します。陸上養殖には通常の海面養殖とは異なり、天気や下記のような多くのメリットがあります。

  • 排泄物や残餌(食べ残し)を管理でき、環境汚染リスクが小さい
  • 給餌・成長確認などの管理がしやすい
  • 赤潮や天災など自然環境の影響を受けない
  • 悪天候でも安定した出荷が可能
  • 海面と比較し安全な労働環境
畜養後のウニ。身がぎっしり詰まっている
畜養後のウニ。身がぎっしり詰まっている(写真提供:ウニノミクス)

長年にわたる研究によりウニノミクスでは約2ヶ月で高品質なウニを畜養することに成功しました。

比較対象として適切ではないかもしれませんが、国内の養殖魚生産量の多くを占めるマダイやブリの養殖期間が約2年間であることを考えると、短期間で養殖が可能といえます。

陸上養殖は水産業において成長分野

現在主流となっている海の一部を囲って行う海面養殖は世界各地で行われていますが、海水温や海流など魚の生育に適した様々な条件が求められ、その場所は限られているため生産量に限界があります。

一方で世界の魚介類消費量は過去半世紀の間に約5倍に膨れ上がったといわれ、今も拡大し続ける需要に応えるべく、陸上養殖に期待が寄せられています。

2010年代の終わり頃から日本各地でサーモンやバナメイエビ、トラフグ等の陸上養殖が行われるようになり、地域ごとのブランド水産物創出の動きが活発化しています。

私達は安心・安全で環境負荷の少ない陸上養殖に、大きな可能性を感じています。

販売:飲食店や小売店などへ直接販売

こうして美味しく育てられたウニは、地元の特産品として『豊後の磯守(ぶんごのいそもり)』という名前を冠してお寿司屋さんや料亭といった飲食店へ販売されています。

独自の畜養技術で育てられたウニは、良質な天然のものと比べてもまったく遜色ありません。天然品は天然ゆえ、品質は極上品から粗悪品まで個体差があります。さらに天然と違い安定した生産・出荷が可能というところは非常に大きなアドバンテージです。

通常、市場に流通するウニは天然ものであるため流通量が安定せず、価格変動が激しく数日のうちに価格が倍になることもしばしあります。

ウニノミクスのビジネスモデル
ウニノミクスのビジネスモデル(写真提供:ウニノミクス)

ウニノミクスが挑戦する『持続可能な磯焼け対策』

海洋生物の生息地となるジャイアントケルプ(写真提供:ウニノミクス)

これまで、磯焼けは各地で問題だとわかっていても補助金に頼らざるを得なく、根本的な解決が難しいものでした。

ウニノミクスのビジネスモデルでは、理論的にはウニを生産、販売することで収益を上げれば上げるほど、磯焼け対策を行う漁業者から畜養ウニを取り扱う飲食店まで関わる全ての方々へ貢献、海の環境を改善していくことになります。

山本さんは、環境問題対策に経済性(利益)を持たせることで持続可能なモデルにすることが重要であるといいます。

地域経済の活性化、地域漁業振興、そして磯焼けの改善。ウニの畜養によってこれらを叶えるのがウニノミクスです。

「国連海洋科学の10年」の公式推薦を授与

ウニノミクスは国際連合より、海洋科学の発展を促進し、海洋生態系を守り持続可能な海洋開発を進めることを目的に国連総会で宣言された「国連海洋科学の10年」の公式推薦を受けました。

営利企業として国連より公式推薦を受けるのは世界で3社のみ、そして、日本での活動に重きを置く企業としてはウニノミクスが唯一の推薦です。

国際連合(以下、「国連」)の「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030年)」(以下、「国連海洋科学…

おわりに

環境問題解決を考える際、どうしても一般的には『これまで普通にできていた何かを制限することを強いられる』といったネガティブなイメージが付き纏います。

しかしウニノミクスの取り組みはポジティブなもの。からっぽのウニを超高級品に変え、それが磯焼けの改善、ひいては環境問題の解決につながるということは、多くの方にとって環境問題への考え方を変えるきっかけになるかもしれません。

快くインタビューに応えてくださった山本 雄万さんに、心より感謝申し上げます。

取材協力:ウニノミクス株式会社

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