ブルーカーボンとグリーンカーボンの比較、多角的な視点から検証します。

陸上生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。かつてはグリーンカーボンとブルーカーボンを区別せず、両者ともグリーンカーボンと呼んでいました。二酸化炭素吸収源としての海洋のポテンシャルに期待が高まるにつれ、両者を区別する必要性が生じ、2009年の国連環境計画(UNEP)において、「ブルーカーボン」という言葉が提唱されました。

ではブルーカーボンとグリーンカーボンは、炭素が隔離・貯留される場が海洋と陸上であるという違い以外に、何が異なるのでしょうか。

今回の記事ではブルーカーボンとグリーンカーボンを複数の点から比較してみます。

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系と比較して炭素を効率的に貯蔵

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系と比較して、最大40倍の速さで炭素を貯蔵します(Duarte, et al., 2005)。従ってブルーカーボン生態系の方が大気中のCO2の吸収能力は高く、地球上の生物が排出するCO2の約30%を吸収すると言われています。他方でグリーンカーボン生態系のCO2の吸収能力はブルーカーボン生態系より低く、地球上の生物が排出するCO2の約12%を吸収すると言われています。ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系と比べて、遥かに効率的に炭素を貯留できるます。

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ブルーカーボンはグリーンカボーンと比較して長期間貯留可能

ブルーカーボンはグリーンカボーンと比較して長期間貯留可能

海底泥中のブルーカーボンは数十年から数千年程度の長期間、分解されずに貯留されます。グリーンカーボンはブルーカーボンと比較すると、短期間しか貯留できません。たとえば、熱帯雨林のグリーンカーボン貯留期間は数十年ほど、長くても数百年程度です。

スペインのポルト・リガト湾の海草藻場や、中央アメリカのベリーズのマングローブ林には6,000年以上の間ブルーカーボンが貯留されています(McKee et al. 2007; Lo Iacono et al. 2008; Serrano et al. 2014)。米国ノース・ニューイングランド地方の塩性湿地に貯留されているブルーカーボンは、3,000~4,000年前からのものです(Johnson et al., 2007)。こうして長期間大気中にCO2を再排出しないので、ブルーカーボンはカーボンリサイクルの中で「ネガティブ・エミッション(ゼロではなくマイナスの排出)」と位置付けられています。

ブルーカーボンと比較してグリーンカーボンの貯留期間が短いのは、グリーンカーボンは大気に放出されやすい環境にあるためです。ブルーカーボンは水に覆われているため、酸化せずに長く貯留されがちです。それと比較して、陸上に位置するグリーンカーボンは大気に曝されがちなため、酸化・分解し、長期間貯留されずに二酸化炭素として大気に放出されます。

ブルーカーボンはグリーンカーボンと比較して地下深く貯蔵

ブルーカーボンはグリーンカーボンと比較して地下深く貯蔵

ブルーカーボンの最大の炭素プール(炭素貯蔵庫)は土壌です(Johnson et al., 2007)。土壌カーボンは枯れた根などを含みます。

グリーンカーボンの土壌カーボンは地下30㎝ほどまでしか貯蔵されません。それと比較して、ブルーカーボンは10㎝~3mの深さまで達します(Hoojoer et al., 2006; Pendleton et al., 2012)。

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系より小さい

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系より小さい

地球上をブルーカーボン生態系が占めるスペースとグリーンカーボン生態系が占めるスペースとを比較すると、ブルーカーボン生態系は遥かに小さいです。ブルーカーボン生態系の広さは、グリーンカーボン生態系の1~10%と推測されています(Mcleod et al., 2011)。グリーンカーボン生態系は陸上の山林、森林、熱帯雨林など、都市部、砂漠地帯や北極、南極を除く陸地全体に分布しています。

ブルーカーボン生態系が全海洋域に占める広さはたった0.2%と非常に狭い範囲です。ブルーカーボン生態系は沿岸の浅瀬にある海草藻場(うみくさもば)、海藻(うみも)藻場、干潟、マングローブ林などに生息しています。それが分布する面積は海洋全体の面積の0.2%とたいへん小さくですが、海洋堆積物に埋められた炭素の50%を含んでいます(Duarte et al., 2013)。

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系と比較して消失が速い

ブルーカーボン生態系は、グリーンカーボン生態系の約2倍の速さで失なわれつつあります(Mcleod et al., 2011)。一年につき340,000~980,000ヘクタールのブルーカーボン生態系が失われていると考えられています(Murray et al., 2011)。現在までにマングローブ林の67%、塩生湿地の35%、海草藻場の29%が消失しています(Pendleton, et al., 2012)。

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ブルーカーボンはグリーンカーボンと比較して謎が多い

ブルーカーボンはグリーンカーボンと比較して謎が多い

グリーンカーボンと比較すると、ブルーカーボンはその研究も応用も発展途上段階にあります。ブルーカーボンが優れたCO2吸収源であることが認識されたのは10年ほど前のことです。従ってブルーカーボン生態系については、そのCO2吸収量や分布、その他について正確なデータが不足しています。クレジット化の取り組みも始まったばかりです。グリーンカーボン生態系については、以前から研究されており、いろいろなデータも蓄積されています。

マングローブ林については多くの研究や保全活動がありますが、東南アジアやアフリカにおける海草藻場の生態についてはほとんど研究されていません。ブルーカーボン研究の進展には地域差があり、東南アジア、アフリカ、南アメリカのブルーカーボン貯留については、現在のところ限定的なデータしかありません(Howard et al., 2014)。

また、人間のどのような活動がブルーカーボン生態系に影響を及ぼし、どれだけの炭素を排出するのかを、算定していく必要があります。特に海草藻場に人間活動が及ぼす影響(温室効果ガス排出量)については、分かっていないことが多いです。

また、ブルーカーボンの貯留場のほとんどは地下ですが、地下に貯留されたブルーカーボンについての詳細は、現在のところ限定的にしか明らかになっていません(Howard et al., 2014)。

ブルーカーボン生態系の炭素吸収量、貯留量、排出量を正確に算定できるようにして、IPCC排出係数データベースのようなデータベースに温室効果ガスの排出量・吸収量を計算する際に必要となるデータを加えていくことも、今後の課題として残されています。

まとめ:ブルーカーボンとグリーンカーボンを総合的に比較して

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系と比較して、より効果的かつ効率的な炭素吸収源として活用できるポテンシャルを秘めています。それにもかかわらず、ブルーカーボンはグリーンカーボンと比べて分かっていないことが多いために、温暖化対策に向けての十分な実用化に至っていないという現状もあります。今後、ブルーカーボンが地球温暖化対策に一層活用できるようになるために、ブルーカーボンの研究が進むことが期待されます。

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • ブルーカーボン生態系は沿岸の浅瀬にある藻場などに分布し、グリーンカーボン生態系は陸上の森林に分布しています。分布面積はブルーカーボンの方が小さく、グリーンカーボンの約1~10%です。
  • ブルーカーボンは浅海底の泥、グリーンカーボンは陸上の土壌に貯留されます。
  • 大気中のCO2の吸収能力はブルーカーボンの方が大きく、グリーンカーボンの約3倍に当たります。
  • 貯留期間はブルーカーボンの方が長く、数千年、グリーンカーボンは数十年〜数百年です。
  • 酸素の供給量は、グリーンカーボン生態系が全体の約1/3、残り約2/3の大部分は海洋の植物プランクトンによるものです。
  • ブルーカーボン生態系の消失速度はグリーンカーボン生態系の約2倍に当たります。
  • ブルーカーボンについては研究や情報の蓄積、クレジット化の取り組みがグリーンカーボンより遅れています。

以上の結論として、ブルーカーボンとグリーンカーボンを比較すると、ブルーカーボンの方がCO2吸収源としては優れているが、研究や活用の取り組みは遅れている、と言えます。

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参考文献

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  • Hoojoer, A., Silvius, M., Wosten, H. & Page, S. (2006). Assessment of CO2 emissions from drained peatlands in SE Asia. A technical Report. Wetlands International Netherlands.
  • Howard, J., Hoyt, S., Isensee, K., Telszewski, M. and Pidgeon, E. (2014). Coastal Blue Carbon: Methods for assessing carbon stocks and emissions factors in mangroves, tidal salt marshes, and seagrasses. Arlington, Virginia, USA.
  • Johnson, B.J., Moore, K.A., Lehmann, C., Bohlen, C. & Brown, T.A. (2007). Middle to late Holocene fluctuations of C3 and C4 vegetation in a Northern New England Salt Marsh, Sprague Marsh, Phippsburg Maine. Organic Geochemistry, 38, 394–403. https://doi.org/10.1016/j.orggeochem.2006.06.006
  • Lo Iacono, C., Mateo, M.A., Gràcia, E., Guasch, L., Carbonell, R., Serrano, L. et al. (2008). Very high‐resolution seismo‐acoustic imaging of seagrass meadows (Mediterranean Sea): Implications for carbon sink estimates. Geophysical Research Letters, 35. https://doi.org/10.1029/2008GL034773
  • McKee, K.L., Cahoon, D.R. & Feller, I.C. (2007). Caribbean mangroves adjust to rising sea level through biotic controls on change in soil elevation. Global Ecology and Biogeography, 16, 545–556. https://doi.org/10.1111/j.1466-8238.2007.00317.x
  • Mcleod, E., Chmura, G. L., Bouillon, S., Salm, R., Björk, M., Duarte, C. M., … & Silliman, B. R. (2011). A blueprint for blue carbon: toward an improved understanding of the role of vegetated coastal habitats in sequestering CO2. Frontiers in Ecology and the Environment9(10), 552-560. https://doi.org/10.1890/110004
  • Murray, B.C., Pendleton, L. & Sifleet, S. (2011). State of the Science on Coastal Blue Carbon: A Summary for Policy Makers. In: Nicholas Institute for Environmental Policy Solutions Report NIR 11-06, pp. 1–43.
  • Pendleton, L., Donato, D.C., Murray, B.C., Crooks, S., Jenkins, W.A., Sifleet, S. et al. (2012). Estimating global “blue carbon” emissions from conversion and degradation of vegetated coastal ecosystems. PLoS One, 7, e43542. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0043542
  • Serrano, O., Lavery, P.S., Rozaimi, M. & Mateo, M.Á. (2014). Influence of water depth on the carbon sequestration capacity of seagrasses. Global Biogeochemical Cycles. https://doi.org/ 10.1002/2014GB004872