ブルーカーボンとは?地球温暖化防止に貢献する仕組みと注目を集める理由

ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。

植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素をブルーカーボンと呼びます。ブルーカーボンとは、葉などの生態内に貯留される炭素と土壌中に貯留される炭素を含みます。 ブルーカーボンは大気中の二酸化炭素を除去し、長期間貯留するという重要な役割を担っています。海洋生態を新たな二酸化炭素吸収源として活用していくことが、今後の地球温暖化対策として、近年注目を浴びています。

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ブルーカーボンとは、地球温暖化防止に貢献する二酸化炭素貯蔵庫

陸地よりも遥かに広大な面積を誇る海底に生い茂る海藻もブルーカーボンの代表的な例

ブルーカーボンという言葉が提唱されたのは、2009年国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)でのことです。ブルーカーボンとは、現在のところ世にあまり知られていない比較的新しい言葉なのです。

二酸化炭素吸収源として、海洋生物の役割に注目すべきだという提案が最初になされたのは、1981年のことでした(Smith, 1981)。

2009年の国連環境計画(UNEP)において、海洋生態システムが気候保全に重要な役割を担い得ると強調されたことを契機に、ブルーカーボンの役割が世界的に注目を浴びるようになりました。

2015年に締結されたパリ協定では、二酸化炭素排出量削減に向けて努力することで55か国以上が合意しました。

日本でも、二酸化炭素吸収源対策としてブルーカーボンの活用を検討するようになりました。2019年、国土交通省は「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を設置しました。2020年に経済産業省が策定した『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』においては、脱炭素化社会に向けてのブルーカーボン生態系の活用について具体的な提言が示されています。

ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)については、吸収源としての大きなポテンシャ ルが期待されており、2013 年に追加作成された IPCC 湿地ガイドラインには含まれていない海藻藻場を対象として、藻場タイプ別の CO2吸収量評価手法の開発を進めている。また、藻場・干潟 の造成・再生・保全技術の開発を実施中です。

『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』

このように、世界的にブルーカーボンを二酸化炭素吸収源として活用しようとする動きが活発化する中、日本でも藻場を活用するなどの新たな取り組みが始まっています。海に囲まれ、浅海域の広がる日本では、ブルーカーボンの活用が一層期待できます。

ブルーカーボン生態系とは

ブルーカーボン生態系とは、ブルーカーボンを隔離し貯留する海洋生態系のことです。ブルーカーボン生態系には主に、マングローブ林、湿地・干潟、海草藻場、海藻藻場があります。

マングローブ林

マングローブ林は熱帯や亜熱帯の陸と海の境に育つ樹木です。マングローブ林は効率よく二酸化炭素を吸収し、成長するにつれ樹木中に炭素を貯蔵します。また、枯れたマングローブは海底で蓄積され、長期的に炭素を貯留し続けます。

ブルーカーボンの代表、マングローブ林(奄美大島)
マングローブ林は代表的なブルーカーボンの一つ。効率よく二酸化炭素を吸収し、成長するにつれ樹木中に炭素を貯蔵する

塩性湿地・干潟

栄養塩が豊富な湿地や干潟には、ヨシや塩生植物が繁茂します。湿地や干潟の植物は二酸化炭素を吸収します。海底には枯れた植物や動物の遺骸が蓄積され、炭素が貯蔵されます。

陸地の一部である塩性湿地・干潟もブルーカーボンの一つの例

海草藻場

アマモなど海草は砂泥の海底に生える種子植物です。陸上の種子植物のように根を張り、根から栄養をとります。水産庁地球温暖化対策推進委託事業の報告書によると、瀬戸内海のアマモ場では、年間73,000トンの炭素が吸収され、約30,000トンが底泥に堆積していると推定されています。

陸地よりも遥かに広大な面積を誇る海底に生い茂る海藻もブルーカーボンの代表的な例

海藻藻場

コンブなどの海藻は海草と異なり、根から栄養をとりません。海藻は葉から栄養をとり、根は岩礁に固着する役割を担います。海藻は根からの栄養を必要としないため、根から離れても生きたまま流れ藻となり、外海へ漂流していきます。外海で枯れた流れ藻は深海に堆積し、ブルーカーボンが貯留されます。

海底のみではなく、根がない昆布や海中海上に浮かぶ海藻もブルーカーボンの代表的な例

ブルーカーボン生態系の保全と管理が重要なわけ

沿岸開発や埋立地・廃棄物処理などの影響でブルーカーボンや生態系に悪い影響を与える

炭素を貯留する特長をもつブルーカーボン生態系は、残念ながら沿岸開発等により失われがちです。

ブルーカーボン生態系が破壊されることのデメリットは、二酸化炭素の吸収源が減少することだけではありません。海底泥内のブルーカーボンは、無酸素状態にあり、有機物に分解されない環境にあるため、数千年もの長期間貯留され続けます。しかし、開発等により大気に晒されると、蓄えていた炭素が大気中に放出され、地球温暖化を一層加速する結果につながります。

ブルーカーボンとは、諸刃の剣のごときであり、世界が適切に保全・再生に努めることで温室効果ガス増加の緩和に貢献し得るのに対して、無暗な沿岸開発を続ければ破壊され、逆に温室効果ガス増加を招いてしまうのです。

ブルーカーボン生態系の役割を理解し、生態系の保全に努めることで、大気中の炭素を減少させるのみならず、大気中に炭素が放出されるのを防ぐことができます。さらに、ブルーカーボン生態系を再生することで、二酸化炭素吸収源が増え、大気中の二酸化炭素量の減少が期待できます。

以上に述べた背景に基づき、現在、ブルーカーボン保全および再生に向けた技術開発をはじめとするプロジェクトが、で策定されつつあるのです。

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参考文献