藻場再生ブルーカーボンプロジェクトとコベネフィット

ブルーカーボン生態系を活用した大気中の二酸化炭素削減対策のひとつに、ブルーカーボン生態系の回復・再生があります。ブルーカーボン生態系再生プロジェクトのひとつとして、藻場再生があります。

これまで多くの藻場が開発等により失われた結果、二酸化炭素吸収源が失われただけでなく、貯留されていたブルーカーボンが破壊され、大気中に炭素が排出したと考えられています。そこで、現在海洋に存在している藻場の破壊を防ぎ保全するだけではなく、藻場を人為的に再生することで二酸化炭素吸収源を増大させる地球温暖化対策が盛んになってきています。

今回の記事では気候変動対策としての藻場の再生について紹介します。

藻場再生

海草藻場や海藻藻場の再生は、大気中炭素の削減に貢献する可能性が研究により示されています(Greiner et al, 2013; Flannery, 2015)。海草藻場再生は、効率のよい二酸化炭素削減対策となり得ることが指摘されており(Duarte et al., 2013; Fourqurean et al., 2012)、期待を集めています。

日本ではブルーカーボン対策以前から、海の自然再生事業として、海草藻場の修復や創出などの再生プロジェクトが実施されてきました。二酸化炭素削減へ向けて世界各国が合意したパリ協定以降、藻場再生は重要な取り組みとしてますます重視されるようになりました。2017年に設立された「ブルーカーボン研究会」は、ブルーカーボン生態系を活用する観点からの藻場造成を提言しています。2019年には、有識者及び関係省庁で構成する「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」が設置されました。2020年には「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」が立ち上げられ、海藻を含めたブルーカーボン生態系再生技術等の気候変動対策手法開発が開始しました。

短期間で再生可能な海草藻場

西オーストラリアの湾岸、オイスターベイでは、ヨシ(P. australis)の海草藻場の再生研究プロジェクトが1994年から2006年にかけて実施されました。

プロジェクトは、海草が失われると炭素貯留の損失を招くこと、また、12年という短い管理期間内において、海草藻場再生が炭素貯留庫の保全および二酸化炭素吸収源の回復につながることを示しました(Marbà et al., 2015)。

世界各地における藻場再生

脱炭素社会の実現に向けて、英米、中国、日本など世界各国で藻場再生プロジェクトが始まっています。

英国の藻場再生ブルーカーボンプロジェクト

英国の海草藻場は前世紀だけでその90%以上が失われたと推定されています(Green et al., 2021)。

英国でこれまで最大の海草藻場再生プロジェクト(The LIFE Recreation ReMEDIES project)が、2021年から4年間の計画で始まりました。英国南部沿岸8か所において計12ヘクタールの海草藻場を再生する計画です。

それ以前からも英国ではProject Seagrassと呼ばれる海草再生プロジェクトが実施されていました。Project Seagrassはこれまで100万もの海草の種をウェールズ南西端のペンブルックシャー沿岸に蒔きました。ブルーカーボン吸収源の増大だけでなく、16万匹の魚が新たに生活できる生息環境が再生できると期待されています。

日本の藻場再生プロジェクト

日本ではブルーカーボン対策が開始される以前から、海の自然保全のためにアマモ藻場の再生をはじめとした対策が行われてきましたが、近年では藻場再生はブルーカーボンプロジェクトの一環として注目を集めています。

海草藻場でアマモが成長するにつれ二酸化炭素が吸収され、枯れた海草が海底に沈み、ブルーカーボンが海底に貯留されるため、アマモ場等が広がる浅海域はブルーカーボン貯留の場として期待されています(Watanabe & Kuwae, 2015a)。また、干潮時に大気に曝されたアマモが大気中の二酸化炭素を直接吸収している可能性も示されています(Watanabe & Kuwae, 2015b)。

日本各地の藻場再生ブルーカーボンプロジェクト

近年、日本各地でブルーカーボン吸収源としての藻場再生プロジェクトが始まっています。日本における藻場再生の多くはNPOや漁業組合を中心にして進められています。

関西空港の人口島では、護岸に緩やかに石を積み上げ、そこに海藻を移植することで藻場の再生が行われました。海藻や海の生物の生育場が広がりつつあります。

山口県周南市では、約29ヘクタールの干潟造成が行われ、アマモやコアマモの生息環境が育成されています。

静岡県熱海市では、コアマモ藻場再生への取り組みが実施されています。また、神奈川県横浜市のブルーカーボン事業も二酸化炭素吸収・固定を目的としたコンブの養殖を行っています。他にも全国でブルーカーボンを活用した気候変動対策として藻場再生が実施されています。

藻場再生がもたらすコベネフィット

藻場を再生していくことには、炭素の隔離・固定が促進されるだけではなく、様々なコベネフィット(同時に創出される便益)があります。

コベネフィットのひとつは防災減災です。藻場再生により、暴風雨や海面上昇からの保護および海岸線浸食防止などが期待できます。また、藻場は多様な海洋生物の生息環境を提供するので、藻場が再生されることにより沿岸海洋生物の増加が期待できます。さらに、海洋生物商業的に重要な魚種の保全と増加は、持続的な食料供給をもたらします。藻場の拡大は、沿岸水質の浄化につながり、周辺地域の観光レクも盛んになることも期待できます。

このように、藻場再生をはじめとするブルーカーボン生態系の保全・再生への取り組みは、開発と気候の便益を同時に創出するというコベネフィットがあります。脱炭素社会の実現に向けての活動が、環境面だけでなく経済・産業の面においても持続可能な社会を創るという副次的な効果をもたらすのです。

参考文献

  • Duarte, C. M., Kennedy, H., Marbà, N., & Hendriks, I. (2013). Assessing the capacity of seagrass meadows for carbon burial: Current limitations and future strategies. Ocean & Coastal Management, 83, 32–38. https://doi.org/10.1016/j.ocecoaman.2011.09.001
  • Flannery, T. (2015) Atmosphere of Hope: Searching for Solutions to the Climate Crisis. Atlantic Monthly Press, New York, NY. p. 41.
  • Fourqurean, J. W., Duarte, C. M., Kennedy, H., Marbà, N., Holmer, M., Mateo, M. A., … & Serrano, O. (2012). Seagrass ecosystems as a globally significant carbon stock. Nature geoscience5(7), 505-509. https://doi.org/10.1038/ngeo1477
  • Green, A. E., Unsworth, R. K., Chadwick, M. A., & Jones, P. J. (2021). Historical analysis exposes catastrophic seagrass loss for the United Kingdom. Frontiers in plant science12, 261. https://doi.org/10.3389/fpls.2021.629962
  • Greiner, J. T., McGlathery, K. J., Gunnell, J., & McKee, B. A. (2013). Seagrass restoration enhances “blue carbon” sequestration in coastal waters. PloS one8(8), e72469. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0072469
  • Marbà, N., Arias‐Ortiz, A., Masqué, P., Kendrick, G. A., Mazarrasa, I., Bastyan, G. R., … & Duarte, C. M. (2015). Impact of seagrass loss and subsequent revegetation on carbon sequestration and stocks. Journal of ecology103(2), 296-302. https://doi.org/10.1111/1365-2745.12370
  • Watanabe, K., & Kuwae, T. (2015a). How organic carbon derived from multiple sources contributes to carbon sequestration processes in a shallow coastal system?. Global Change Biology21(7), 2612-2623. https://doi.org/10.1111/gcb.12924
  • Watanabe, K., & Kuwae, T. (2015b). Radiocarbon isotopic evidence for assimilation of atmospheric CO 2 by the seagrass Zostera marina. Biogeosciences12(20), 6251-6258. https://doi.org/10.5194/bg-12-6251-2015