グリーンカーボンとは陸上の植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出す有機炭素化合物のことです。同じく海洋植物が光合成反応によって作り出す有機炭素化合物はブルーカーボンと呼ばれます。
グリーンカーボン生態系はCO2の吸収、酸素の供給、陸上生態系の存続・維持などたいへん重要な役割を果たしています。ところが現在、アフリカや南米などで森林の破壊が急速に進んでおり、深刻な課題となっています。
グリーンカーボンとは、陸上の植物が作り出す有機炭素化合物
最近、「ブルーカーボン」という言葉をよく耳にしますが、実はその先輩格に当たる「グリ−ンカーボン」という言葉があります。
このサイトはブルーカーボンを主題とするサイトですが、グリーンカーボンもブルーカーボンと同じく地球温暖化対策上、重要な役割を果たしているので、この記事で取り上げます。
グリーンカーボンとは、陸上の植物が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して、光合成反応によって作り出す有機炭素化合物を意味しています。
グリーンカーボンを作り出す陸上の植物はグリーンカーボン生態系と呼ばれます。グリーンカーボン生態系の生息地は、森林、草原など、砂漠と都市部を除く陸地の全てに渉るので、大変広い領域に分布しています。その内、代表的なものは森林です。
ブルーカーボンとは
一方、海藻などの海洋植物もCO2を吸収して光合成反応により有機炭素化合物を作り出します。これがブルーカーボンです。
そしてブルーカーボンを作り出す海洋植物はンブルーカーボン生態系と呼ばれます。
ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。 植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素を[…]
グリーンカーボンとブルーカーボンを比較
グリーンカーボンとブルーカーボンをいろいろな項目について比較してみた上での結論は「ブルーカーボンの方がCO2の吸収源としては優れているが、研究や活用の取り組みの面では遅れている」というものです。
ブルーカーボンの優れたCO2吸収源としての特性が認識されたのは、十数年前のことだからです。
陸上生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。かつてはグリーンカーボンとブルーカーボンを区別せず、両者ともグリーンカーボンと呼んでいました。二酸[…]
グリーンカーボンが果たす役割
グリーンカーボン生態系、すなわち陸上の植物が果たす役割はいろいろあります。以下に、これらを順に挙げて行きます。
大気中の二酸化炭素の吸収
上に述べた通り、植物はその中の葉緑体が二酸化炭素(CO2)を吸収して、光合成反応により有機炭素化合物を作り出します。
二酸化炭素は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主成分です。
現在、世界の各国が地球温暖化危機を回避するために2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。カーボンニュートラルとは、人為起源の二酸化炭素の排出量と、大気中の二酸化炭素の吸収量を等しくさせて、CO2の排出を実質ゼロにすることです。
従って、グリーンカーボン生態系が果たす、大気中のCO2の吸収という役割は極めて重要なものです。
酸素の供給
植物の葉緑体が行う光合成反応は、水(H2O)+二酸化炭素(CO2)→酸素(O2)+有機炭素化合物(例えば、デンプン(C6H10O5)nなど)という式で表される反応で、反応生成物には酸素(O2)も含まれています。
つまり、グリーンカーボン生態系、ブルーカーボン生態系は共に、大気中に酸素(O2)を供給するという役割を果たしているのです。
動物は酸素呼吸をしなければ生存できないので、これも極めて重要な役割です。
グリーンカーボンが供給する酸素の量は全体の約1/3で、残りの約2/3はブルーカーボン(主として植物プランクトン)が供給しています。
陸上の生態系の存続・維持
グリーンカーボン生態系、すなわち陸上の植物は、陸上の全ての動物の存続・維持に欠くことのできない役割を果たしています。
先ず、植物の実、葉、茎、根は草食動物、雑食動物の餌となることによってこれらの動物を養っています。
人類が食べる農産物もグリーンカーボン生態系に他なりません。
そして、肉食動物は草食・雑食動物を餌とすることによって自己の生命を維持しています。
また、森林や草原は陸上の動物に、無くてはならない生存の場を提供しています。
水資源の確保
グリーンカーボン生態系の主要部分となる森林は、陸上の生態系にとって欠くことのできない水を確保する役割も果たしています。
森林の土壌は、有機物やいろいろな生物によって作られるスポンジ構造となっているため、ここに降った雨水を蓄えることができます。
グリーンカーボンを巡る課題:森林破壊
グリーンカーボン生態系の主要部分をなす森林は世界全体で見ると、大きな減少を続けており、深刻な課題となっています。
森林破壊の現状
国連食糧農業機関が2016年に発表した「世界森林資源評価 2015」によると、2015年における世界の森林面積は約39.99億ha(ヘクタール)で、陸地面積全体の30.6%を占めています。
ところが、この数字を1990年の41.28億haに比べると1.29億ha減少しており、1年当たり516万haの森林が消失していることになります。
2010年から2015年の間で見ても、毎年330万haの森林が消失しています。
これには地域的な偏りがあり、南米では202万ha/年、アフリカでは284万ha/年の減少、逆にアジアでは79万ha/年、ヨーロッパでは38万ha/年、オセアニアでは30万ha/年の増加を示しています。
つまり、アフリカと南米の熱帯雨林で急速に森林破壊が起こっているわけです。
一例を挙げると、ブラジルのアマゾン熱帯雨林では、2020年〜2021年の1年間に132万haの熱帯雨林が消失しています。
森林破壊の原因
森林破壊が起こる原因を4つ挙げてみます。
森林破壊の原因①土地利用の転換
世界的には人口は増加しており、住居、食料、エネルギーの需要のために森林を伐採して農地などに転換する動きが加速しています。
森林破壊の原因②焼畑農業の増加
森林を伐採して焼き払い、そこを数年間、農地として使った後、自然の回復力によって森林に戻すのが本来の焼畑農法です。森林の回復を待たずにこれを繰り返すと森林破壊をもたらします。
森林破壊の原因③木材の過剰な採取
開発途上国をはじめ、多くの場所で薪や木炭が日常生活の燃料として使われています。世界全体で見ると、木材の使用目的の半分が燃料用となっています。
森林破壊の原因④山林火災
最近、世界の各地で大規模な山林火災が発生しています。
この原因としては、焼畑農業や農地開発のために草木を燃やすことの他に、気候変動による異常な乾燥や気温上昇で起こる自然発火も挙げられています。
森林破壊の対策
世界的な枠組みにおいて取られている森林破壊の対策を3つ挙げてみます。
森林破壊の対策①地球サミットでの合意
1992年にブラジルにおいて「地球サミット」すなわち国連環境開発会議が開催され、「森林原則声明」が採択されました。ここでは森林の保全・回復を目指し、国際的に取り組むべき15の項目を規定しています。
森林破壊の対策②持続可能なパーム油のための円卓会議
これは2004年に設立された非営利組織です。マレーシアやインドネシアにおいてパーム油の原料、アブラヤシの農園開発のために熱帯雨林の破壊が起こっており、これに対処することを目的としています。
森林破壊の対策③SDGsの15番目の目標
2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の15番目「陸の豊かさも守ろう」の中では「森林の持続可能な管理」も謳われています。
まとめ
以上に述べて来たことの要点をまとめます。
- 陸上の植物がCO2を吸収して、光合成によって作り出す有機炭素化合物がグリーンカーボンです。同じく海洋植物が光合成によって作り出す有機炭素化合物はブルーカーボンと呼ばれます。
- グリーンカーボンが果たす役割には、大気中のCO2の吸収、酸素の供給、陸上の生態系の存続・維持、水資源の確保などがあります。
- 現在、特にアフリカと南米の熱帯雨林において、森林の破壊が急速に進んでおり、深刻な課題となっています。森林破壊の現状、原因、対策について解説しました。
参考文献
- 国土交通省「ブルーカーボンとは」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html - 環境省「国際的な森林保全対策」
https://www.env.go.jp/nature/shinrin/index_1.html - 林野庁「世界の森林動向と持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論の概要」
http://www.geoc.jp/content/files/japanese/2012/01/0824_resume03.pdf - もりつく「グリーンカーボンとは? – 持続可能な未来のための自然のギフト」
- https://moritsuku.com/environmental-problem/post-170/