森林環境税とは?その趣旨、仕組み、用途、問題点をやさしく解説

一般にはあまり知られていないことですが、2024年度から森林環境税という国税が毎年、1人当たり1,000円徴収されます。その趣旨、仕組み、用途、問題点についてわかりやすく解説します。

森林環境税とは

森林環境税とは

森林環境税は、ブルーカーボンと同じく自然の二酸化炭素(CO2)吸収源として地球温暖化対策上も大事な役割を担う森林を荒廃から守るために創設されました。

関連記事

ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。 植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素を[…]

2024年度から徴収されるこの森林環境税について、その趣旨、仕組みなどを解説します。

森林環境税とは国民均等割り1,000円/1人の国税

森林環境税は2024年度より毎年、納税者1人当たり1,000円徴収される国税です。

森林の整備・再生のための地方財源を確保することを目的として2019年3月、森林環境譲与税と共に創設されました。

森林環境税創設の趣旨:森林環境譲与税の財源

森林環境税が創設された趣旨は森林環境譲与税の財源を確保するためです。

森林環境譲与税は、持主や境界が不明になっている、人手不足のために手入れが行き届かないなど、荒廃が進んでいる日本の森林を整備するために、国から都道府県や市町村に譲与される配布金です。

森林環境税は2024年度から施行されますが、森林環境譲与税は既に2019年度から施行されています。

森林環境税と森林環境譲与税の仕組み

森林環境税は全国約6,200万人の納税義務者から市町村が個人住民税とは別に1人当たり1,000円の国税として徴収します。

市町村が徴収した森林環境税は都道府県を通して国の「交付税及び譲与税配布金特別会計」に収納されます。
この特別会計から森林環境譲与税が決められた配分基準に従って、一部は都道府県に、残りは市町村に譲与されます。
譲与されたこの配布金は、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(2019年3月、国会において成立)に基づいてその用途が次の様に定められています。

都道府県では「森林整備を実施する市町村の支援に関する費用」に充当すること、市町村では間伐など「森林の整備に関する施策」と人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発など「森林の整備の促進に関する施策」に充当すること、とされています。

関連記事

グリーンカーボンとは陸上の植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出す有機炭素化合物のことです。同じく海洋植物が光合成反応によって作り出す有機炭素化合物はブルーカーボンと呼ばれます。 グリーンカーボン生態系はCO2の吸収、[…]

森林環境譲与税の使い道

森林環境譲与税の使い道

森林環境譲与税はどんな用途に使われ、どんなことに役立っているのでしょうか。その主な使い道を4つ挙げてみます。

間伐の実施による森林の保全でCO2吸収の促進

森林は適度に間伐、すなわち間引きをすることにより、樹木が健全に育ちます。こうして保全された森林は光合成により、大気中のCO2を吸収してくれるので、地球温暖化防止に大事な役割を果たします。
また森林の樹木が根を張ることにより、土砂崩れによる大災害を防ぐ役割も果たしています。

ところが現在、間伐に従事する人手が不足して、日本の森林は荒廃しているため、森林環境譲与税を間伐の実施に当てる自治体が多く見られます。

水源の確保と生物多様性の保全

森林は山のダムと言われています。それは森林の樹木が地中にしっかり根を広げることにより、土が水を貯留する作用が高まるからです。
また、樹木の落葉を通して雨水が地中にゆっくり浸透することにより、川への急激な流出を防ぎ、貴重な水源を確保する役割も果たしています。
更に、森林は下草、灌木、コケなどの植物や、いろいろな動物の住処となることにより、生物多様性の保全にも役立っています。

所有者が不明な森林の管理

現在、日本の多くの森林が所有者や境界が不明の状態になっているため、管理が行き届かず、荒廃したまま放置されています。
林環境譲与税を使うことにより、こうして荒廃した森林の管理も、自治体が引き受けることができるようになります。

林業に携わる人材の育成

現在、日本において林業に携わる人材は高齢化が進み、絶対数も不足しています。
各自治体は林業従事の後継者を育てるための普及・啓蒙活動や、現場技能者の技術指導などにも、森林環境譲与税を活用しています。

森林環境譲与税の2つの問題点

森林環境譲与税の2つの問題点

貴重な森林を荒廃から守るために配布される森林環境譲与税ですが、これにはいくつか問題点もあります。以下に2つの問題点を挙げます。

配分に関する問題

森林環境譲与税の総額とその配分の基準は次のように決められています。

総額

  • 2022年度と2023年度:各年度500億円(88:12の割合で、市町村に440億円、都道府県に60億円)
  • 2024年度以降:各年度約600億円(90:10の割合で、市町村に540億円、都道府県に60億円)

配分の基準

  • 市町村と都道府県に共通
  • 総額の50%:私有林、人工林の面積
  • 総額の20%:林業就業者数
  • 総額の30%:人口

問題は総額の30%が人口に従って配分されることです。

このために東京都の区部など、人口は莫大でも森林などほとんどない所に多く配分され、森林は豊富にあるが人口の少ない過疎地の山村への配分が少なくなっています。

使い残しの問題

国から配布された森林環境譲与税が、多くの自治体において、年度内に使い切れず基金などの形で積み立てに回されています。

2020年度の例

都道府県譲与額事業総額(使われた額)
北海道約30億6670万円約11億8370万円
岩手県約1億3750万円約5370万円
東京都約14億4040万円約2億1610万円

まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • 森林環境税は2024年度から毎年、1人当たり1,000円徴収される国税です。
  • 森林環境税創設の趣旨は、森林を荒廃から守るために、毎年国から地方自治体に配布される森林環境譲与税の財源を確保するためです。
  • 森林環境譲与税は、間伐の実施などによる森林の整備・保全、所有者不明の森林の管理、林業従事者の育成・指導などの用途に充当されます。
  • 森林譲与税の問題点として、配分の不適正と使い残しの2点を挙げました。
関連記事

陸上生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。かつてはグリーンカーボンとブルーカーボンを区別せず、両者ともグリーンカーボンと呼んでいました。二酸[…]

参考文献