カーボンオフセットにおけるブルーカーボンの活用

カーボンオフセットとは、あるところで排出された温室効果ガスを、別のところで埋め合わせすることです。

たとえば、ある事業が製品の製造過程で温室効果ガスを排出します。そこで、別のところで、植物を植えるなどして、炭素吸収源を増やします。すると、大気中の炭素が植物により吸収・貯蔵され、大気中の温室効果ガスが減ります。そうすることで、排出した温室効果ガスを埋め合わせ、相殺したと考えます。このように、排出した温室効果ガスを埋め合わせることを、カーボンオフセットと呼びます。

現在、ブルーカーボンの炭素吸収と炭素貯蔵のポテンシャルに期待が高まるにつれ、ブルーカーボンを活用したカーボンオフセットへの期待も高まっています。

カーボンオフセットの方法

風力発電などの再生可能エネルギーを活用し、温室効果ガスの排出を減らす活動 カーボンオフセット

カーボンオフセットには主にふたつの方法があります。ひとつは、生態系保全や造成により、二酸化炭素吸収源と貯留庫を維持したり増やしたりして、大気中の炭素を減少させるものです。もうひとつは、再生可能エネルギーを開発したり活用したりすることで、温室効果ガスの排出を減らすものです。ブルーカーボンを活用したカーボンオフセットは、ブルーカーボン生態系の保全・造成により大気中の炭素を減少させる種類のものが主流です。

コンプライアンスオフセットとボランタリーオフセット

コンプライアンスオフセットとボランタリーオフセット

カーボンオフセット市場は二種類に分けられます。国連や政府の主導する法的拘束力をもつものがコンプライアンスオフセットです。それ以外(民間、NGO、個人など)が主導し自主的に行うオフセットは、ボランタリーオフセットと呼ばれます。

現在のところ、ブルーカーボン生態系を活用したカーボンオフセットは、主にボランタリーオフセットとして行われています。

コンプライアンス・カーボンオフセット

政府や企業は、規定された年間炭素排出量を守らなければなりません。政府の他、主に電力事業、鉱業、航空業など炭素排出量の多い業界の組織が排出量を規定されます。排出量を規定するのは、ヨーロッパ排出量取引制度(European Union Emission Trading Scheme: EUETS)、パリ協定の目標、カリフォルニア州キャップ・アンド・トレード制度などです。政府や企業は、規定された排出量を超える場合は、カーボンクレジットをコンプライアンス・カーボンオフセット市場で購入するなどの方法で超過分を相殺します。逆に規定の排出量を下回る場合は、カーボンクレジットを売却することができます。

日本と途上国が協力して温室効果ガス削減に取り組み、削減量を分け合う制度である二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)も、コンプライアンス・カーボンオフセットに分類される制度のひとつです。

ボランタリー・カーボンオフセット

コンプライアンス・カーボンオフセット市場と異なり、ボランタリー・カーボンオフセット市場には多様な業界の組織が参加します。気候変動対策に貢献したいと考える組織、NGO、個人などが自主的にカーボンクレジットを購入し、カーボンオフセットを行っています。また、ボランタリーオフセットは、特定のイベントで排出された温室効果ガスを相殺する目的で行われることが多いです。

ボランタリーオフセット市場において、地球温暖化防止に貢献する組織の動機を調べた調査(Pendleton et al., 2012)があります。そのうち3分の1が責任感から、22%が組織のブランディングのために、13%が差別化戦略と回答しました。組織が排出した温室効果ガスを相殺することは、組織のイメージアップ戦略としても重要になってきているのです。

自主的にカーボンオフセットを実施するのは個人でもできます。たとえば、飛行機に乗るという個人的な特定のイベントに伴う温室効果ガス排出について、飛行距離や飛行時間に応じた排出量分のカーボンクレジットを購入することで、オフセットするのです。オフセットするには、民間カーボンクレジット認証組織(Climate Action ReserveGold StandardVerraなど)を利用するか、航空会社のオフセット制度を利用します。

民間カーボンクレジット認証組織を利用する場合、カーボンクレジットを購入したり、ブルーカーボンプロジェクトなどを選び投資することで、自分の活動が排出した温室効果ガスをオフセットします。

現在では、多くの航空会社がカーボンオフセットのオプションを乗客に提供しているので、利用する航空会社を通して手軽にオフセットできます(たとえば、JALカーボンオフセット)。カンタス航空の乗客のためのカーボンオフセット制度を通して支援するカーボンプロジェクトは、湿地帯を造成するブルーカーボンプロジェクトも含んでいます。他の主要航空会社でも、乗客はカーボンオフセットオプションを購入したりポイントを使うことで、航空機利用に伴う温室効果ガス排出をオフセットできます。

イベントで発生する温室効果ガスをブルーカーボンプロジェクトでオフセット

横浜トライアスロン大会で発生する二酸化炭素を、ブルーカーボンプロジェクトでオフセットする取り組みを実施

横浜市はトライアスロン大会で発生する二酸化炭素を、ブルーカーボンプロジェクトでオフセットする取り組みを二度行っています。

横浜市の取り組みもボランタリー・カーボンオフセットの一例です。横浜市のオフセットの取り組みは、ワカメの地産地消や海水エネルギーを利用した海水ヒートポンプの導入による二酸化炭素削減であるところに特徴があります。横浜市のカーボンオフセットクレジットの売却益は、藻場の保全・再生やワカメ養殖等のプルーカーボン事業に再投資されています。

ブルーカーボンオフセットを巡る今後の課題

ブルーカーボン生態系は災害等による海洋環境の変化の影響を受ける可能性がある

ブルーカーボンを活用したカーボンオフセットは近年広まりつつありますが、まだ課題も多くカーボンオフセットの主流にはなっていません。

ブルーカーボンプロジェクトは、災害等による海洋環境の変化の影響を受ける可能性があり、効果の予測が困難となる場合があります。また、ブルーカーボン生態系から期待できる炭素吸収・貯留量を正確に算定することが難しいため、排出される炭素を正確な値でオフセットするために、別の種類のカーボンオフセット方法が選ばれがちです(Benessaiah, 2012; Ullman et al., 2013)。

ブルーカーボンプロジェクトに関わる課題が研究や調査により徐々に乗り越えられていくことで、今後ブルーカーボンプロジェクトがカーボンオフセットに広く利用されるようになることが期待されます。

参考文献