ブルーカーボンとビジネスをつなぐ合理性とは

ブルーカーボン保全とビジネスは、持続可能な社会を確立するために不可欠な関係にあります。

パリ協定採択以降、ESG投資CDPをはじめ、企業の気候変動対策を促す数々の国際的イニシアティブが台頭する中、温室効果ガス削減に向けた貢献度が、企業価値の重要な評価基準となってきています。日本国内においても、2018年に気候変動対策に取り組む企業や団体のネットワークである「気候変動イニシアティブ」が発足し、現在では多数の企業や団体が参加しています。経済、社会、環境のそれぞれの間に好循環を創出するビジネス形態への転換が、企業にとってこれまでになく重要な課題となってきているのです。

ブルーエコノミーとは

ブルーエコノミーは海洋に関わる開発パラダイムであり、経済、社会、環境の持続可能な発展を目指します(Attri & Bohler-Muller, 2018; Steven et al., 2019)。ブルーエコノミーの経済、社会、環境という三つの柱は、2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)を反映しています。

ブルーカーボン市場とは

カーボン市場(炭素排出量取引)やカーボンプライシング(炭素への価格づけ)は、企業や個人による二酸化炭素排出量削減を促す有効な手段として、現在世界的に推進されています。定められた排出枠を実際の排出量が超えてしまう国や企業が、排出枠より排出量が少ないところからカーボンクレジットを購入できます。そうすることで、排出量が相殺され、排出枠を超えてしまう国や企業も削減に貢献したと見做されます。

カーボンクレジット取引制度(Verraなど)では、企業等がカーボンプロジェクトからカーボンクレジットを購入できます。プロジェクトを実施するビジネスや組織は、カーボンクレジットを売ることで売却益が期待できます。

かつてはグリーンカーボン関連取引が主でブルーカーボンは含まなかったカーボン市場ですが、現在では徐々にブルーカーボンの取引も含むようになってきています。

アップルがコロンビアのマングローブ林に投資するわけ

ブルーカーボン保全活動におけるビジネスの役割が注目を集める中、ブルーカーボンプロジェクトに投資する企業が増えています。

Appleは、2019年に米国の非営利環境団体Conservation Internationalが主導するコロンビアのマングローブ林ブルーカーボンプロジェクトに資金を提供しました。2021年5月には、このブルーカーボンプロジェクトから7,646ヘクタールものマングローブ林のブルーカーボンクレジット販売が開始されました。Appleは17,000 カーボンクレジットをVerraで購入しています。

Apple製品の製造・販売過程自体は、決して環境に優しいものではありません。むしろ多大な温室効果ガスを排出する世界的企業のひとつでしょう。だからこそ、カーボンプロジェクトに積極的に投資し、製品製造・販売にともない排出される温室効果ガスを相殺することが、持続可能な企業と認められるために重要となってきます。

Conservation Internationalを支える企業リストを見ると、Appleの他、ペプシ、コカ・コーラ、日産、トヨタ、三菱、ナイキ、7-イレブン、BHPグループといった温室効果ガス排出量の多い企業が名を連ねています。大企業が自主的な温室効果ガス削減へ取り組むことが、企業価値向上の重要な要素となっていることが伺えます。

Appleはブルーカーボンプロジェクトをサポートする以前にも、メーン州にて森林保全に関わるグリーンカーボンプロジェクトを支えてきました。その投資は、Appleが自社製品のパッケージ等に使う紙類の原料の産地についての不透明性に対する批判を緩和する役割もあろうという指摘もなされています。

ビジネスのカーボンプロジェクト投資は、それまで環境保全貢献度においてマイナスとなっていた企業評価を向上させるチャンスでもあるのです。

ブルーカーボンプロジェクトがビジネスと雇用を創出する

パキスタンのデルタ地帯では、史上最大のマングローブ林保全・再生ブルーカーボンプロジェクトが実施されています。

デルタブルーカーボンプロジェクトでは、2021年度だけでも100万カーボンクレジットの販売が見込まれています。デルタブルーカーボンプロジェクトにより、人口が5万に満たない地域において2万を超える雇用創出が可能と推定されています。ブルーカーボンプロジェクトがビジネスとして成功し、経済、社会、環境の好循環を可能とする一例です。

政府・自治体が推進するブルーカーボン市場で取引するビジネス

日本ではVerraのような民間企業によるカーボン市場は現在のところ始まっていないものの、政府・自治体推進によるブルーカーボンクレジット取引の試行が開始しています。

国によるブルーカーボン生態系クレジット制度と連携した「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」は、2021年に藻場・干潟等を対象としたブルーカーボンクレジット取引の試行を行い、住友商事、東京ガス、セブンーイレブン・ジャパンの3社がブルーカーボンクレジットを購入しました。

自治体の推進するブルーカーボンクレジット取引には、福岡市博多湾ブルーカーボン・オフセット制度横浜ブルーカーボン事業などがあります。

ブルーカーボン保全と畜養事業の循環型ビジネスモデル

ブルーカーボン生態系の保全活動から発生する海産物を活用し、コベネフィット化するビジネスも始まっています。

大量の痩せたウニが海藻を食べつくし、二酸化炭素吸収源を破壊する「磯焼け」という悪循環が問題になっています。そこで、ウニノミクス社は、ウニを藻場から取り除き、陸上で育て食材として出荷することで、藻場保全に貢献すると同時に事業化しました。藻場保全とウニ畜養事業の循環型ビジネスモデルです。2021年にはウニノミクス社とENEOSホールディングス株式会社との協業が発表されました。

このようにブルーカーボン保全活動が新たなビジネスを創出するポテンシャルも、ビジネス主導の温室効果ガス削減対策への貢献が一層求められる中、期待を集めています。

参考文献

  • Steven, A. D. L., Vanderklift, M. A., & Bohler-Muller, N. (2019). A new narrative for the Blue Economy and Blue Carbon. Journal of the Indian Ocean Region, 15(2), 123–128. https://doi.org/10.1080/19480881.2019.1625215
  • Attri, V. N., & Bohler-Muller, N. (2018). The Blue Economy handbook of the Indian Ocean region. Pretoria: Africa Institute of South Africa Press.