温暖化対策における多様なブルーカーボン活用事例

地球温暖化防止に向けての取り組みが盛んになるにつれ、世界中でブルーカーボンを活用した興味深い事例が増えてきています。

今回の記事では、ブルーカーボン活用事例を紹介します。

ベトナムでの養殖エビ産業を変えたマングローブ林保全プロジェクト事例

ベトナムでの養殖エビ産業を変えたマングローブ林保全プロジェクト事例

ベトナムで実施されたMarkets and Mangrovesと呼ばれるマングローブ林保全プロジェクトは、地域の養殖エビ産業が持続可能な有機養殖エビ産業へと変容することで可能となった事例です。

水産業が盛んなベトナムでは、エビの養殖は全水産業の3分の1を占める大きな産業です。マングローブ林保全ブルーカーボンプロジェクトが始まる以前、地域のエビ養殖に従事する漁師たちは、マングローブ林を採伐することで養殖の場を増やしてきました。その結果、かつての半分以上のマングローブ林が失われました。マングローブ林はエビを健康に保つ役割も担っていたので、マングローブ林が減った結果、多くの養殖エビが育たずに病死するようになりました。養殖の場を増やし十分な量の養殖エビを出荷するために、さらなるマングローブ林が採伐されるという悪循環に陥っていました(Wylie et al., 2016)。

ブルーカーボンの代表、マングローブ林(奄美大島)
ブルーカーボンの代表、マングローブ林(奄美大島)

Markets and Mangrovesプロジェクトはその悪循環を好循環に転換した成功事例です。国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature: IUCN)の指揮の下、2012年に開始したプロジェクトは、地域のエビ養殖産業が有機養殖エビの認証を受けられるようエビ養殖産業を変革しました。認証を受けた有機養殖エビは高値で取引され、国外に輸出されます。その結果、地域の漁師は十分な収入を得られるようになりました。

有機養殖エビ認証を受けるには、マングローブ林を採伐してはいけないので、マングローブ林は破壊されません。また、有機養殖エビ認証には同時にマングローブ林保全・再生活動が課されるので、ブルーカーボン吸収源・貯留庫としてのマングローブ林増加につながります。

ベトナムの事例は、地域の住民の経済的ニーズがブルーカーボン保全と有機エビ養殖の普及により満たされると同時に、持続可能な脱炭素・循環型社会が可能となったブルーカーボンプロジェクトの成功事例です。

先住民の生活を支えるホンジュラスのブルーカーボンプロジェクト事例

先住民の生活を支えるホンジュラスのブルーカーボンプロジェクト事例

ホンジュラスのMuskitiaブルーカーボンプロジェクトも、地域住民の経済的ニーズを満たすことでブルーカーボン保全を成功させている事例です。

プロジェクトは5,000ヘクタールのマングローブ林を保全することで、マングローブ林破壊に伴う二酸化炭素排出を防ぎます。このブルーカーボンプロジェクトの特徴は、マングローブ林に頼らずに地域住民が生活できるよう、ココアや蜂蜜の製造、漁業といった新たな職を創出するところにあります。先住民族の女性や若者たちが、環境への負担の少ない新たな職を得ることにつながっています。

プロジェクトはSouth Poleという営利目的型組織の下、8つの先住民族が中心となり実施されています。先住民族は環境を守りつつ持続可能な社会を作るために話し合い、アイディアを出し合います。地域の人々が経済的に豊かになることで、マングローブ林を破壊することなく生活の質を上げていくことができます。

Muskitiaブルーカーボンプロジェクトは、2021年にGucciの投資を受け、大規模なブルーカーボンプロジェクトの事例としてさらに発展しつつあります。

バイオ燃料としてのブルーカーボン活用事例

バイオ燃料としてのブルーカーボン活用事例

ブルーカーボンを活用した気候変動対策の事例には、藻類のエネルギー利用も含まれます。海藻をバイオマス燃料として活用するのです。

バイオマスとは、生物由来の資源であり、燃料にしてエネルギーとして利用することができます。バイオマス燃料を使用すれば、二酸化炭素が排出されます。けれども、バイオマス燃料の材料は二酸化炭素を吸収する植物等を利用しているため、大気中の二酸化炭素吸収量・除去量と排出量が同等となります。そのため、バイオマス燃料を使用することで、大気中の二酸化炭素の量は変化しないということになります。二酸化炭素の排出量と吸収量・除去量の差が全体としてゼロとなる、カーボンニュートラルの状態です。

カーボンニュートラルを実現する技術のひとつに、カーボンリサイクルがあります。二酸化炭素を資源として捉え、二酸化炭素を大気から吸収して、燃料等として再利用します。バイオマス燃料としての海藻技術開発も、カーボンリサイクルおよびカーボンニュートラルといった考えを念頭に実施されます。

日本製鉄グループが開始しているブルーカーボンを利用した炭素循環システム技術の開発も、そのひとつの事例です。海藻を利用したマリンバイオマスをカーボンニュートラル剤として生産し、製鉄の過程で利用できるようになることを目指しています。藻場養殖や藻場再生には、製鉄プロセスの副産物である鉄鋼スラグを活用した沿岸環境改善技術を開発し適用します。そのようにしてブルーカーボン生態系を回復し、同時にブルーカーボンのバイオマス燃料化を目指します。

成功するブルーカーボン活用事例は地域の経済を持続可能にしている

成功するブルーカーボン活用事例は地域の経済を持続可能にしている

紹介した事例に見られるように、ブルーカーボン保全・再生は、地域の産業や先住民族の生活を守ることで持続可能となっています。ブルーカーボンを保全しつつ活用する事例は今後さらに増えていくことが見込まれます。今後も、ブルーカーボン生態系を守ると同時に、環境に負担の少ない経済活動を可能とする多様な方法を考えていくことが期待されます。

参考文献