福岡県におけるブルーカーボンの取り組み事例を徹底解説

海洋植物が大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して作り出す有機炭素化合物の海底貯留部分がブルーカーボンです。

ブルーカーボンは、全世界が脱炭素を目指す現在、優れたCO2吸収源として注目されています。この記事では、福岡県におけるブルーカーボンの取り組み事例を3つ取り上げて、それぞれの内容を詳しくご紹介します。

ブルーカーボンとは

この記事のテーマは、福岡県で行われているブルーカーボン活用の取り組み事例ですが、それは後半で詳しく解説いたします。
ここでは、その後半の内容を理解するために、先ず、ブルーカーボンそのものについてご説明いたします。

ブルーカーボンの正体

海藻などの海洋植物が大気から海水に溶けた二酸化炭素(CO2)を吸収して、光合成反応によって有機炭素化合物を作り出します。この有機炭素化合物が海底の泥に貯留されたものがブルーカーボンです。

ブルーカーボン生態系

ブルーカーボンを作り出す海洋植物が生育している群落を「ブルーカーボン生態系」と言い、次の4種類があります。

  • 海草藻場(うみくさもば):種子植物の海草(アマモなど)が生育している群落です。
  • 海藻藻場(かいそうもば):胞子で増える海藻(ワカメ、コンブ、アラメなど)が生育している群落です。
  • マングローブ:熱帯・亜熱帯の汽水域(淡水と海水が混ざり合う所)に生育する植物群落で、日本近海では沖縄、奄美大島に分布しています。
  • 干潟:潮が引くと砂泥地となり、潮が満ちると海中に没する所が干潟です。ここもブルーカーボン生態系の一種です。
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ブルーカーボンは優れたCO2吸収源

ブルーカーボン生態系はCO2吸収速度が速いため、CO2の吸収能力が極めて高く、年間、人為起源のCO2排出量の約30%を吸収すると言われています。

また、ブルーカーボンは浅海底の泥の中に貯留されますが、ここは無酸素状態のためバクテリアによる分解を受けず、数千年という長期間に渉って貯留されます。
この2つの特徴により、ブルーカーボンは脱炭素を目指す現代社会において、優れたCO2吸収源として注目されています。

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福岡県におけるブルーカーボンの取り組み、3つの事例

福岡県におけるブルーカーボンの取り組み

福岡県におけるブルーカーボンの取り組みとして福岡市の事例を2つ、糸島市の事例を1つご紹介します。

福岡市の博多湾EXT会議の取り組み

福岡市は全国に先駆けてブルーカーボン活用の取り組みを積極的に始め、横浜市と共に日本におけるブルーカーボンの2大拠点を形成しています。
2018年5月に、個人の市民、市民団体、漁業関係者、企業、行政などが連携、共同して「豊かな博多湾の環境を未来の世代に引き継ぐ」ことを目的に「博多湾NEXT会議」を設立しました。この会議は「アマモ場づくり」を中心として博多湾の環境保全活動に取り組んでいます。

アマモ場づくりの手法としては、苗の移殖(割りばしではさんで海底に移殖)、種子の散布(寒天団子に包んで海に投げ込み)、播種シートを海底に設置(ヤシ殻製のシートに種子を挟み込む)などを採用しています。

福岡市博多湾ブルーカーボンオフセット制度

2020年10月、福岡市は「福岡市博多湾ブルーカーボンオフセット制度」を創設しました。
カーボンオフセット制度とは、温室効果ガスの主成分である二酸化炭素(CO2)をやむを得ず排出した場合に、それを他所で行われたCO2排出削減・吸収促進活動に資金援助をすることによって埋め合わせる制度です。

博多湾ブルーカーボンオフセット制度は、博多湾で行われるアマモ場の造成活動、天然アマモ場の維持管理活動、生物共生型護岸活動による海藻藻場の創出で実現されたCO2の吸収量をブルーカーボンクレジットとして販売し、企業などがこのクレジットを購入して博多湾EXT会議の活動に資金援助をする仕組みを提供するものです。

2021年度のクレジット販売価格は8,800円/t-CO2で、クレジットの販売量は48.5t-CO2という結果でした。

糸島市の糸島漁協とヴェントゥーノ株式会社のブルーカーボン推進協定

糸島市の糸島漁協とヴェントゥーノ株式会社のブルーカーボン推進協定

糸島市は、福岡県の最西部に位置する市で、2010年1月1日、周辺の1市と2町が合併して誕生しました。
2021年6月、この糸島市の漁業共同組合とフコダイン使用の健康食品や化粧品を販売する株式会社ヴェントゥーノがブルーカーボンの推進における地域貢献協定を結びました。
フコダインはワカメの根元の部分、メカブから取り出される成分で、ガンの自然療法に用いられています。

協定の目的は、ヴェントゥーノ社が糸島漁協からメカブを継続的に購入して漁業者の収入安定を図ること、糸島漁協はワカメの増産のためにワカメ藻場の保全・再生に取り組み、これによってブルーカーボンの推進に貢献することです。

まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • ブルーカーボンとは、海洋植物が大気中のCO2を吸収して作った有機炭素化合物が海底に貯留されたもので、CO2の優れた吸収源として注目されています。
  • 福岡県におけるブルーカーボンの取り組み事例として、博多湾NEXT会議の取り組み、福岡市博多湾ブルーカーボンオフセット制度、糸島市漁協とヴェントゥーノ社のブルーカーボン推進協定をご紹介しました。

参考文献