北海道におけるブルーカーボンの取り組み事例を簡単に解説

ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気中のCO2を吸収して作り出す有機炭素化合物です。これを作り出す海洋植物、ブルーカーボン生態系は極めて高いCO2吸収能力を持っています。このため、脱炭素を目指す現代社会において、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として期待を集めており、これを活用するための取り組みも各地で行われています。ここでは、北海道におけるブルーカーボンの取り組み事例を5つ取り上げてご紹介します。

優れたCO2吸収源、ブルーカーボン

現在、世界各国が脱炭素を志向する中、優れた二酸化炭素(CO2)吸収源としてブルーカーボンというものが注目を集めています。
そして、このブルーカーボンに対する取り組みが、日本においても北海道をはじめ、横浜市、福岡市、阪南市その他で行われています。
この記事では特に北海道における取り組みについて、ご紹介します。

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気中から海水に溶けた二酸化炭素を吸収し、光合成反応によって作り出す有機炭素化合物です。
ブルーカーボンを作り出す海洋植物はブルーカーボン生態系と呼ばれます。
このブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く、人為起源のCO2排出量の約30%を吸収すると言われています。
またブルーカーボンは浅海底の泥の中に貯留されますが、ここは無酸素状態であるため、バクテリアによる分解を受けず、数千年という長期間に渉って貯留されます。
この2つの特徴により、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源という評価を得ています。

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ブルーカーボン生態系の生育地:藻場

日本近海では、ブルーカーボン生態系の主要な生育地は藻場(もば)です。
藻場は種子によって繁殖する海産種子植物の海草(うみくさ)藻場と、胞子によって繁殖する海藻(かいそう)藻場に大別されます。
海草藻場の例はアマモ場、海藻藻場の例はコンブ場、アラメ・カジメ場、ガラモ場などです。
現在、沿岸の埋め立て事業や、水質汚染などにより藻場の消失が進んでいることが問題になっています。

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北海道におけるブルーカーボンの取り組み事例

北海道におけるブルーカーボンの取り組み事例を5つ、ご紹介します。

北海道開発局の釧路港、函館港における取り組み

国土交通省、北海道開発局は国立研究開発法人、寒地土木研究所と連携して、釧路港の沖合の防波堤に浚渫した土砂を盛り上げて浅場を作り、ここに海藻藻場を育てるプロジェクトを実施しています。そして、ここに設けた3,600m2の試験区域に生息した海藻類によるCO2貯留量を測定して、年間約0.53kg/m2、森林による貯留量の2.4倍という結果を得ました。このプロジェクトでは、将来43,200m2の浅場を整備する計画があるので、これが完成すると年間約22.9tのCO2が貯留できることになります。
同様の取り組みを函館港でも行っています。

沿岸環境研究グループの風蓮湖、火散布沼における取り組み

沿岸環境グループは日本沿岸の海草藻場を対象にして、CO2の貯留量の測定、貯留のメカニズムに関する研究を行っています。北海道東部の風蓮湖及び火散布沼のアマモ場における調査では、過去の相対的な海面変動がアマモ場のCO2貯留速度を規定していることを突きとめました。この結果より、気候変動に伴う海面上昇がCO2貯留速度を速める可能性も示しました。

日本製鉄の増毛町における取り組み

日本製鉄株式会社では、北海道増毛町の沖合に鉄鋼製造の副産物、鉄鋼スラグと廃木材チップを発酵させた腐植土を混ぜて袋詰めにしたユニットを沈め、人工的に海藻藻場を造成しています。腐植酸鉄の供給により、ユニット埋設の半年後にはその沖合30m辺りにコンブが豊富に生育しており、この効果は2年目、3年目にも続くことを確認しています。

(株)ジャパンブルーカーボンプロジェクトの道東における取り組み

株式会社ジャパンブルーカーボンプロジェクトでは、北海道の道東において、藻場再生・磯焼け対策の事業を展開しています。
その内容は、漁場・藻場の清掃、海藻を食べてしまうウニの海からの駆除と陸上での養殖、光マイクロバブル技術を用いたコンブの促成育成などです。

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NGOエコフォーティチュードの石狩・後志地方における取り組み

エコフォーティチュード(Ecofortitude)は環境分野のNGO(Nongovernmental Organization, 非政府組織)で、特に地球温暖化対策に重点を置いて活動しています。このNGOは2019年度に「北海道「ブルーカーボン」イニシアティブ」を立ち上げ、北海道石狩・後志地方において、藻場再生・保全普及及び啓発の活動、アマモ場調査を行っています。

まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気中から海水に溶けた二酸化炭素を吸収して、光合成反応によって作り出す有機炭素化合物です。
  • ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高いこと、またブルーカーボンは浅海底の泥の中に極めて長期間に渉って貯留されること、によりブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目されています。
  • 北海道におけるブルーカーボンの取り組み事例として、北海道開発局の釧路港、函館港における取り組み、沿岸環境研究グループの風蓮湖、火散布沼における取り組み、日本製鉄の増毛町における取り組み、ジャパンブルーカーボンプロジェクトの道東における取り組み、エコフォーティチュードの石狩・後志地方における取り組みをご紹介しました。

参考文献