ブルーカーボンの主役、藻場 その保全・再生が急務なわけ

海藻などの海洋植物が大気中の二酸化炭素を吸収して作り出す有機炭素化合物、『ブルーカーボン』は優れたCO2吸収源として注目されています。

ブルーカーボン生態系が生育する場所、藻場の役割は海洋生態系の維持とCO2の吸収です。現在、この藻場の消失が急速に進んでおり、藻場の保全・再生活動が必須の急務となっています。

ブルーカーボンは藻場で生まれ藻場に眠る

ブルーカーボンは藻場(もば)で生まれ藻場に眠る、と言われます。まず、ブルーカーボンと藻場について説明します。

ブルーカーボンとは

海藻などの海洋植物は、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、光合成反応によって有機炭素化合物を作り出します。この有機炭素化合物がブルーカーボンです。

ブルーカーボンを作り出す海洋植物から構成される生態系はブルーカーボン生態系と呼ばれます。このブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く、人為起源のCO2排出量の約30%を吸収すると言われています。

またブルーカーボンは浅海底の泥の中に貯留されますが、ここは無酸素状態であるため、バクテリアによる分解を受けず、数千年という長期間に渉って貯留されます。

この2つの特徴のために、脱炭素を目指す現代社会において、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目を集めています。

ブルーカーボン生態系の生育する場所は藻場

ブルーカーボンを作り出す海洋植物から構成されるブルーカーボン生態系には藻場、干潟、マングローブ林などがあります。

マングローブ林は熱帯や亜熱帯に分布しているので、日本の沿岸では藻場が主要な生育地になります。日本では、ブルーカーボンは藻場で生まれ、藻場の海底に貯留されます。

藻場の種類

藻場には大きく分けて海草(うみくさ)藻場と海藻(かいそう・うみも)藻場の2種類があります。

海草とは海の中で花を咲かせ、種子によって繁殖する海産種子植物で、アマモなどがその例です。

海藻とは胞子によって繁殖する海中の藻類で、アラメ・カジメ、ガラモ、コンブなどがその例です。

藻場の代表的植物アマモの生態

アマモは日本の沿岸域の浅海、砂地に分布する海草(かいそう、うみくさ)の一種です。

私たちが「かいそう」と聞いてまずはじめに思い浮かべるのはワカメやコンブですが、それらは海に生える藻の「海藻」です。

アマモは海に生息していますが、陸上の多くの植物と同じように花が咲き種を作って繁殖する種子植物です。

アマモは主に波の静かな湾の砂地にみられ、一般的に多年生植物(茎の一部や地下茎、根等が枯れずに残り、個体として複数年生存する植物)ものとされていますが、環境条件によって一年生(発芽後、一年以内に種子を残して枯れる植物)になるといわれています。

アマモは花を咲かせて種子を作る『生殖株』と、地下茎(露出せず地下で伸びる茎)を伸ばして生長する『栄養株』があります。一年生のアマモは種子で繁殖し、多年生のアマモは種子のほか、地下茎を伸ばすことで繁殖します。

藻場の保全・再生は急務

これから藻場の果たす役割、藻場の破壊の進行、藻場の保全・再生の取り組みについてご説明します。

藻場の2つの主要な役割:海洋生態系の維持とCO2の吸収源

藻場の果たす主要な役割のひとつは海洋生態系の維持です。藻場は海中のいろいろな生物にとって産卵の場や隠れ場所を提供しています。また、水の浄化や酸素の供給もしています。

窒素やリンなどの栄養塩を吸収して、海水の富栄養化を抑え、植物プランクトンが急激に繁殖する赤潮を防ぎます。さらに、自分自身がアワビなどの貝類その他の海洋生物の餌にもなっています。

藻場の果たす主要な役割のもうひとつは、ブルーカーボンを作り出し、その貯留の場ともなることによって、CO2の大事な吸収源になっていることです。

藻場の消失が進んでいる

現在、世界的に、藻場が消失する「磯焼け」と呼ばれる現象が急速に進んでいます。沿岸域で年間、約2%〜7%の藻場の消失が起こっていると言われています。日本でも例えば瀬戸内海では、1960年〜1990年の30年間で1万6000ha、すなわち約7割のアマモ場が消失しています。

消失の原因の内最大のものは、沿岸域の埋め立て事業です。また、植物プランクトンの増殖による海水の透明度の低下も消失の原因として挙げられています。透明度が低下すると光合成反応が進まず海藻、海草の成長に支障を来たすからです。

他の原因として農薬や工場排水などの有害物質の流入や、アイゴやウニなど、海藻類を食べてしまう生物の繁殖も挙げられています。

藻場の保全・再生の取り組み

藻場が消失して行くと、海洋生態系の維持やCO2の吸収ができなくなるので、藻場の保全・再生は今、是非とも取り組むべき急務となっています。

以下に、現在行われている藻場の保全・再生の取り組みをいくつかご紹介します。

漁業協同組合による藻場環境保全の取り組み

全国、約290の漁業協同組合が藻場の環境保全に取り組んでいます。その内容は、施肥による栄養補給、母藻の供給、種苗の採取・播種(アマモ場)、ウニ等の食害生物の移殖・除去などです。

漁協や地域と連携した藻場再生の取り組みについては以下の記事で事例を紹介しております。

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地方自治体による藻場再生の取り組み

横浜市では横浜市海の公園のアマモ場、ベイサイドマリーナのアマモ場と海藻藻場、福岡市では博多湾のアマモ場の再生活動に取り組んでいます。

その内容は藻場のゴミ回収や種苗移植などで、両市共にこの活動を対象にブルークレジットを発行、販売しています。

ブルークレジットの事例については以下の記事をご覧ください。

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民間企業による人工的な藻場造成の取り組み

日本製鉄株式会社では、鉄鋼製造の副産物である鉄鋼スラグと、腐植土とを混ぜて袋に詰めたユニットを海に沈めることにより、人工的にコンブなどの藻場を造成しています。

まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • ブルーカーボンとは海藻などの海洋植物が大気中の二酸化炭素を吸収し、光合成反応によって作り出す有機炭素化合物です。
  • ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目されています。
  • ブルーカーボン生態系の生育場所は、日本近海では藻場が主要な位置を占めています。
  • 藻場の主要な役割は海洋生態系の維持とCO2の吸収です。
  • 現在、沿岸の埋め立てや水質汚染のために藻場が急速に消失しているので、藻場の保全・再生活動は必須の急務となっています。

参考文献