脱炭素ビジネスの基礎知識や日本における事例を簡単に解説

脱炭素とは、二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくさせて、二酸化炭素の排出を実質ゼロに抑えることです。

二酸化炭素は現在、地球温暖化危機をもたらしている温室効果ガスの主成分です。従って脱炭素の実現は、世界全体が真剣に取り組むべき緊急課題となっています。この脱炭素の実現への取り組みは、広範な分野に新たなビジネスチャンスを生み出し、「脱炭素ビジネス」という言葉が生まれています。

本記事では、日本の脱炭素ビジネスの3つの事例をご紹介します。
また、脱炭素ビジネスの背景をなす5つの重要なキーワード、脱炭素、SDGs、CO2排出削減、カーボンオフセット、カーボンニュートラルを取り上げて解説いたします。

脱炭素はビジネスチャンスの宝庫

最近、脱炭素、脱炭素化、脱炭素社会などと、「脱炭素」という言葉をよく耳にします。

脱炭素とは二酸化炭素の排出をしないこと

脱炭素の炭素は二酸化炭素を指しています。従って脱炭素とは、その二酸化炭素(CO2)の排出をゼロにすることです。

しかし、本当にCO2を排出せずに生きては行けません。

脱炭素の正確な意味は、人為起源の二酸化炭素の排出量と、自然作用や人工的な手段による大気中の二酸化炭素の吸収量を等しくさせて、CO2の排出を実質ゼロにすることです。

脱炭素ビジネスの有望な14分野

この脱炭素の実現に向けた取組は広範な分野にビジネスチャンスを生み出し、脱炭素ビジネスという言葉が生まれています。

経済産業省の「グリーン成長戦略」では、今後成長が期待される分野として次の14分野を挙げています。

  • エネルギー関連産業:洋上風力・太陽光・地熱/ 水素・燃料アンモニア/ 次世代エネルギー原子力の4分野
  • 輸送・製造関連産業:自動車・蓄電池/ 半導体・情報通信/ 船舶/ 物流・人流・土木インフラ/ 食料・農林水産業/ 航空機/ カーボンリサイクル・マテリアルの7分野
  • 家庭・オフィス関連産業:住宅・建築物・次世代電力マネジメント/ 資源循環関連/ ライフスタイル関連の3分野

脱炭素ビジネスに関連する基礎知識

次に、脱炭素ビジネスのバックグラウンドをなす、いくつかのキーワードを取り上げて解説いたします。

脱炭素のあらまし

脱炭素の意味は上に述べた通り、CO2の排出を実質ゼロにすることです。

脱炭素が必要な理由は地球温暖化対策

今、脱炭素が必要とされる理由は地球温暖化危機を回避するためです。

世界の平均気温は工業化が完了する以前(1850~1900年)に比べて2017年時点で約1℃上昇しています。
この上昇傾向は依然として続いており、このまま放置して工業化完了以前に比べて2℃以上の上昇を許すと、地球上の全生物の存在を脅かす危機が訪れると予測されています。

地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主成分は二酸化炭素です。世界の工業化に伴って人為起源の二酸化炭素の排出量は急激に増え、これが地球温暖化危機をもたらしています。

現在も、人為起源の二酸化炭素の排出量は吸収量を上回っており、大気中のCO2は増え続けています。
このため、今日、脱炭素が全世界で取り組むべき緊急課題となっているのです。

脱炭素を実現する方法はCO2削減とCO2吸収の促進

脱炭素を実現する方法はCO2の排出を削減することと、大気中のCO2の吸収を促進させることの2つに大別されます。CO2の排出の削減については、後述いたします。

CO2の吸収は、陸海の植物の光合成反応を利用する方法が主流です。
しかし、人工的な手段による二酸化炭素回収・二酸化炭素貯留の技術も多くの企業が開発しており、すでに実用化の段階に入っています。

脱炭素とSDGsとの関係性

SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。これは2016年から2030年までの15年間に、国連に加盟している193カ国が達成すべき17個の目標を掲げたものです。

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されました。例えば「1.貧困をなくそう」、「2.飢餓をゼロに」など、この17個の目標はいずれも現代の世界で是非達成してほしいものばかりです。
この中の「13.気候変動に具体的な対策を」は、まさしく脱炭素の実現がそれに応えるものとなっています。

脱炭素を実現するためにCO2排出を削減する2つの方法

大気中への二酸化炭素の排出を削減する方法の一つは再生可能エネルギーの利用を拡大することです。再生可能エネルギーには太陽光・洋上風力・地熱発電や水素エネルギーなどがあります。

もう一つの方法は省エネルギーです。政府は企業を対象にした省エネルギー法を制定して2030年までにエネルギー消費効率を2013年度比で35%改善することを目指しています。

脱炭素の実現のためにカーボンオフセットの利用

カーボンオフセットとは、自分がやむを得ず行ったCO2の排出を、他の場所で行われるCO2削減活動を利用して埋め合わせることです。埋め合わせる方法の一つは、植林などのCO2削減事業に自ら参加や投資をすることです。

もう一つの方法はクレジットを購入して、他の場所で行われるCO2削減事業に資金援助を行うことです。クレジットは、CO2削減事業主が実現したCO2削減量に料金を設定して販売するもので、排出権取引と同様の考え方です。

カーボンニュートラルのあらまし

「脱炭素」以上にポピュラーな「カーボンニュートラル」という言葉があります。

「カーボンニュートラル」の意味は「脱炭素」と同じ

カーボン(carbon:炭素)は二酸化炭素を指しています。ニュートラル(neutral:中立)はプラスでもマイナスでもないこと、つまりゼロを指しています。

従ってカーボンニュートラルの意味は「二酸化炭素の排出を実質ゼロにすること」で、脱炭素と同じなのです。

注目のきっかけはパリ協定

地球温暖化危機の解決に向けて2015年に採択された「パリ協定」において、次のような長期目標が設定されました。

  • 世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つと共に、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)
  • 今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること

この目標を達成するために世界の多くの国々が「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」ことに向けた真剣な取り組みを進めています。

日本においても、2020年10月の菅首相の所信表明演説には「2050年カーボンニュートラル宣言」が盛り込まれています。

そのほか、脱炭素の意味や脱炭素を実現する方法については以下の記事で解説しています。

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日本における脱炭素ビジネスの3つの事例

以下に日本国内の脱炭素ビジネスの事例を3つご紹介いたします。

ブルーカーボンに関わる日本製鉄の事例

先ず、ブルーカーボンについてご説明いたします。ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気から海水に溶け込んだCO2を吸収して光合成反応により作り出す有機炭素化合物を指します。

ブルーカーボンを作り出すブルーカーボン生態系の二酸化炭素吸収能力は極めて高く、人為起源のCO2排出量の約30%を吸収します。

またブルーカーボンが海底に貯留されている期間は極めて長く数千年にわたります。
この2点で、現在ブルーカーボンはたいへん有望な二酸化炭素吸収源として注目されています。

日本製鉄の事例

日本製鉄ではブルーカーボンに関する基礎研究、鉄鋼製造の副産物である鉄鋼スラグを活用した干潟や藻場(ブルーカーボン生態系の生育の場)の造成、また鉄鋼スラグから作られる肥料を用いた藻場の再生などの取り組みを行っています。

再生可能エネルギーに関わるトヨタ自動車の事例

トヨタ自動車では「トヨタ環境チャレンジ2050」という取り組みにおいて、自ら再エネ発電→工場・販売店では省エネ技術の展開と再エネ・水素の共同利用→ユーザーのためには地域エネルギー事情に応じた3つの電動車種の使い分け→使用済み電池の再利用・再資源化というプロセスを計画しています。

炭素回収に関わる三菱重工エンジニアリングの事例

三菱重工エンジニアリングでは、従来CO2回収ビジネスを行って来ました。

これをさらに強化してエナジートランジション(低環境負荷エネルギーへの転換)分野での新たな取り組みを推進させるために2020年12月1日、「脱炭素事業推進室」を設置しました。

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まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • 脱炭素の意味は、人為起源の二酸化炭素の排出量と、自然作用や人工的な方法による吸収量を等しくさせて、CO2の排出量を実質ゼロにすることです。
  • 脱炭素を実現するための取り組みは多くのビジネスチャンスを作り出し「脱炭素ビジネス」という言葉が生まれています。
  • 脱炭素が必要な理由は地球温暖化対策です。地球温暖化危機の原因となっている温室効果ガスの主成分は二酸化炭素です。
  • 脱炭素の実現は、SDGsに掲げられた17個の目標の一つ「気候変動に具体的な対策を」に応えるものです。
  • 脱炭素の実現のためにCO2排出を削減する方法として、再エネの利用と省エネがあります。
  • カーボンオフセットとは、自分が排出したCO2を、他所で行われるCO2削減活動によって埋め合わせることです。
  • カーボンニュートラルの意味は脱炭素と同じです。
  • 日本における脱炭素ビジネスの事例として、ブルーカーボン、再エネ、炭素回収に関わる事例をご紹介しました。

参考文献