大気中のCO2の排出量と吸収量を等しくして、排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現は全世界が目指す課題です。これに向けてブルーカーボン生態系の高いCO2吸収能力が注目を集めています。このブルーカーボンのメリットと課題もご紹介します。
環境省が2050年までにカーボンニュートラルを実現するために策定した戦略についてもご紹介します。
カーボンニュートラルの実現とブルーカーボン
カーボンニュートラルとは、大気中の二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量を等しくして、排出を実質ゼロにすることです。急速に進む地球温暖化に対処するために、大気中の二酸化炭素排出の抑制が全世界の緊急課題となっています。日本政府も2050年までにカーボンニュートラルを実現することを宣言しています。
ここで、優れたCO2吸収能力を持つブルーカーボンに期待が高まっています。
海底に蓄えられた炭素、ブルーカーボン
ブルーカーボンとは海藻などの海洋生物が大気中の二酸化炭素を原料として、光合成反応により作り出した有機炭素化合物が海底に蓄えられたものです。
ブルーカーボンを作り出す海洋生物、ブルーカーボン生態系は、海草藻場(うみくさもば)、海藻(うみも)藻場、干潟、マングローブ林などに生育しています。
極めて高いブルーカーボン生態系のCO2吸収能力
ブルーカーボンはカーボンニュートラルの実現に大きな役割を果たします。それはブルーカーボン生態系が極めて高い二酸化炭素の吸収能力を持っているからです。
人類をはじめ地球上の生物が大気中に排出する二酸化炭素の約30%を吸収すると言われています。これはグリーンカーボンを作り出す陸上の植物の吸収能力、約12%をはるかに上回る数値です。
カーボンニュートラルの実現にブルーカーボンを活用する3つのメリット
以下にブルーカーボンを活用するメリットを3つ挙げてみます。
メリット①ブルーカーボンのネガティブ・エミッション
ブルーカーボンの特徴は、大気中から吸収したCO2を有機炭素化合物の形で海底に閉じ込めてしまい、再び大気中に戻さないことです。その意味でブルーカーボンの働きはカーボンリサイクルの中で「ネガティブ・エミッション(ゼロではなくマイナスの排出)」と位置付けられています。カーボンリサイクルとは、大気中のCO2を回収して再利用する取り組みの総称です。
メリット②ブルーカーボンは長期間、安定して貯留される
ブルーカーボンが貯留されている浅海底の泥は無酸素状態なので、ブルーカーボンはバクテリアによる分解を免れ、数千年という長期間にわたって安定した形で貯留されます。
メリット③ブルーカーボンはブルーカーボン生態系の自然作用によって作られる
ブルーカーボン生態系が大気中の二酸化炭素を吸収して海底に貯留するのは純粋な自然作用です。従ってブルーカーボンを作るために人がエネルギーやコストを投入する必要は全くありません。
ブルーカーボンが抱える3つの課題
ここではブルーカーボンに関する課題を3つ挙げてみます。
課題①ブルーカーボンについては未知の要素が多い
ブルーカーボン生態系の高いCO2吸収能力が人の目に留まり、国連環境計画の報告書の中で「ブルーカーボン」と命名されたのは2009年10月、たった12年前のことです。
従ってブルーカーボンについては、CO2の吸収量の正確な数値をはじめ、未知の事柄が沢山あります。また、ブルーカーボンのクレジット化なども、あまり進んでいません。
課題②ブルーカーボン生態系の破壊が進んでいる
現在、沿岸のインフラ建設やゴミ投棄のために、ブルーカーボン生態系の破壊が急速に進んでいます。このまま放置すると今後20年の間に完全に消失してしまう、と言われています。
課題3.ブルーカーボンは海洋の酸性化を引き起こす
大気中の二酸化炭素が海洋中に溶けると炭酸イオン(CO3 2-)と水素イオン(H+)に分かれます。
ブルーカーボン生態系が炭酸イオンを大量に吸収してしまうと、海水の水素イオン濃度が増えて海洋の酸性化が起こります。これは海洋の生態系に悪い影響を及ぼします。
カーボンニュートラル実現のための環境省の戦略
2050年にカーボンニュートラルを実現するために、環境省は2021年6月、「地域脱炭素ロードマップ〜地方から始まる次の時代への移行戦略〜」を決定しました。
この先5年間に実現する2つのMISSION
その戦略の中では、この先5年間を集中期間として、その間に果たすべき次の2つのMISSION(課題)を掲げています。
MISSION①脱炭素先行地域を創出する
生活エリア、ビジネス・商業エリア、自然エリア、施設群に分けて、合計100か所以上の脱炭素先行地域を創ります。そこでは、再生可能エネルギーの活用、住宅や建築物への省エネルギーの導入、CO2排出実質ゼロの電気・熱・燃料の供給、地域の自然資源を生かしたCO2の吸収源対策などに取り組みます。
MISSION②全国で実施する重点対策
脱炭素の基盤となる重点対策として、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電を使う、公共施設や業務ビルにおける省エネルギーを徹底する、資源循環の高度化を通じて循環経済への移行を図る、食料・農林水産業の生産力の向上と持続性の両立を図る、などを掲げています。
そして上記2つのMISSIONを後押しするための基盤的な施策として、「地域の実施体制を構築し国が積極的に支援する」、「グリーンとデジタルを併用したライフスタイルのイノベーションを進める」、「社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーションを進める」の3つを挙げています。
まとめ
以上に延べて来たことの要点をまとめます。
- カーボンニュートラルとは、大気中の二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくして、排出を実質ゼロにすることです。
- 地球温暖化対策として全世界が2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目指しています。
- ブルーカーボン生態系は極めて高いCO2吸収能力を持っているため、カーボンニュートラルの実現に大役を果たします。
- ブルーカーボンの特徴は、大気中にCO2を再放出しない「ネガティブ・エミッション」です。
- 環境省は2050年にカーボンニュートラルを実現するための戦略「地域脱炭素ロードマップ」を決定しました。そこでは、この先5年間に実現する課題として、脱炭素先行地域の創出と全国で実施する重点政策が掲げられています。
参考文献
- 環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/ - 国土交通省「ブルーカーボンとは」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html - 堀 正和(国立研究開発法人水産研究。教育機構 瀬戸内海区水産研究所)「CO2吸収源対策の新たな選択肢〜ブルーカーボン〜」
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/forum/attach/pdf/top-6.pdf - 堀 正和(国立研究開発法人水産研究。教育機構 瀬戸内海区水産研究所)「ブルーカーボンを用いたCO2吸収源対策と今後の展望」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/seibi/attach/pdf/r1_isoyaketaisakukyougikai-9.pdf