長崎県におけるブルーカーボンの取り組み事例を徹底解説

ブルーカーボンとは海洋植物が二酸化炭素(CO2)を吸収して作り出した有機炭素化合物が海底に貯留されたもので、現在、優れたCO2吸収源として注目を集めています。
この記事では、長崎県におけるブルーカーボンの取り組み事例を2つ、詳しくご紹介します。

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンとは

この記事のメインテーマは長崎県におけるブルーカーボンの取り組み事例です。そこで先ず、ブルーカーボンそのものについてご説明します。

ブルーカーボンの正体

海藻などの海洋植物は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して光合成反応によって有機炭素化合物を作ります。これが海底に貯留されたものがブルーカーボンです。

ブルーカーボン生態系

ブルーカーボンを作り出す海洋植物の群落がブルーカーボン生態系です。
この生態系には、種子植物の海草(うみくさ)(例:アマモなど)の群落の海草藻場、胞子で増える海藻(かいそう)(例:コンブ、ワカメなど)の群落の海藻藻場、マングローブ、干潟などがあります。

現在、ブルーカーボン生態系が消失する「磯焼け」という現象が問題になっています。
磯焼けの原因は、都市近郊の沿岸では埋め立てなどの沿岸開発や工場排水による水質汚染が主要ですが、開発が進んでいない五島列島の沿岸などでは、水温などの環境変化や海藻を食べる生物(ウニ、アイゴなどの魚)の活性化が主要な原因となっています。

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ブルーカーボンは優れたCO2吸収源

ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く(人為起源のCO2排出量の約30%を吸収)、またブルーカーボンの海底に貯留される期間は極めて長く数千年に渉ります。
このため脱炭素を目指す現代社会においてブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目されています。

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長崎県におけるブルーカーボンの取り組み、2つの事例

長崎県におけるブルーカーボンの取り組み、2つの事例

長崎県におけるブルーカーボンの取り組み事例として、五島市の取り組みと長崎大学等の取り組みをご紹介します。

五島市の取り組み

長崎県五島市は九州の最西端、長崎県の沖合100kmの五島列島に属する11の有人島と52の無人島で構成された市です。
五島市は2020年12月にゼロカーボンシティ宣言を表明しましたが、その以前から再生可能エネルギー(洋上風力発電など)や磯焼け対策など、カーボンニュートラル促進事業に積極的に取り組んで来ました。ここでは、ブルーカーボンに関係した取り組みをご紹介します。

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五島市磯焼け対策

2019年に「五島市磯焼け対策アクションプラン」を策定しました。これは五島市沿岸の藻場の保全・再生と磯焼けの原因究明を目的とするもので、2019年度~2029年度の間に、5つの地区において合計5.0haの藻場の回復を目指すプランです。

また上記の磯焼け対策アクションプランの確実な実行のために「五島市藻場回復等総合対策事業業務委託」という事業を展開しました。これは2019年度~2021年度に渉り、民間の事業者が持っている新しい藻場回復技術を公募して実践する、というものです。

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五島市ブルーカーボン促進協議会

2021年10月、五島市ブルーカーボン促進協議会が設立されました。この協議会のメンバーは、水産研究・教育機構、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)、磯根研究所、漁業者、福江商工会議所、管内3漁業協同組合、五島市です。

実施する事業は、先進地の視察(横浜市、福岡市)、カーボンオフセット制度の検討、5地区において藻場回復活動の実施、シンポジウムの開催などです。

シンポジウムは2022年3月29日、五島市ブルーカーボン促進協議会と五島市再生可能エネルギー推進協議会の主催の下に開催され、2つの講演が行われました。

  1. 「Jブルークレジットについて」(講師:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の桑江理事長)
  2. 「五島市の磯焼け対策について」(講師:水産技術研究所研究員/磯根研究所の吉村代表)
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長崎大学、理化学研究所、琉球大学の取り組み

2022年5月、長崎大学のグレゴリー・ナオキ・ニシハラ教授、理化学研究所の佐藤陽一研究員、琉球大学の田中厚子助教、他9人の研究グループが海藻のCO2の吸収量を精度よく測定する研究成果を発表しました。

この研究は、CO2の吸収量を海水中に溶けた酸素(O2)の量を用いて測定する点が画期的です。植物によるCO2の吸収は、CO2と水(H2O)から有機炭素化合物(C、H,、Oの化合物)と酸素(O2)を生成する光合成反応によって行われます。
従来、生成された有機炭素化合物の量を測る方法が用いられていたのですが、この場合、生成した有機炭素化合物の一部が外に流れ出してしまうので、精度が良くなかったのです。

更に今回の研究では海水中に設置した測定機で10分おきに酸素の濃度を測ることにより、海藻は光合成反応ではなく呼吸作用をする時間帯もあり、この時間帯では逆にCO2を放出していることも明らかにしました。

まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • 海洋植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出した有機炭素化合物が海底に貯留されたものがブルーカーボンで、優れたCO2吸収源として注目されています。
  • 現在、ブルーカーボン生態系が消失してしまう「磯焼け」という現象が問題になっています。
  • 長崎県におけるブルーカーボンの取り組み事例として、五島市の取り組みと長崎大学等の取り組みをご紹介しました。

参考文献