脱炭素とは、人為起源の温室効果ガスの排出量と吸収源による吸収量を等しくさせて、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。
この記事では漁業の脱炭素化を目指す国の政策を、水産庁の「みどりの食料システム戦略」に基づいて見て行きます。
脱炭素とは
この記事のテーマは漁業の脱炭素化政策ですが、先ず始めに脱炭素とは何か、についてご説明します。
脱炭素の意味
脱炭素」の「炭素」は二酸化炭素(CO2)を意味しています。二酸化炭素は地球温暖化を引き起こしている温室効果ガスの76%を占める主成分です。従ってここでは二酸化炭素は温室効果ガスの代名詞として使われています。
そこで、「脱炭素」という言葉の意味は、人為起源の温室効果ガスの排出量を、植物などによる吸収量と釣り合わせて、人為起源の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。
脱炭素とは、人為起源のCO2排出量と吸収量を等しくさせて、排出を実質ゼロにすることです。 脱炭素が必要な理由は地球温暖化危機を回避するためです。脱炭素を実現する方法には、CO2排出の削減と吸収の促進があります。 脱炭素とは、二[…]
実は、この「脱炭素」という言葉は「カーボンニュートラル(carbon neutral)」という英語の日本語訳として登場したものです。
カーボンニュートラルという言葉の意味は、人為起源の温室効果ガスの排出量を吸収量と釣り合わせて、実質ゼロにすることです。脱炭素という言葉の普通の使い方では、カーボンニュートラルと同じ意味ですが、特殊な使い方の場合、両者に違いが出ることがあり[…]
今、脱炭素が注目される理由
人為起源のCO2の排出量は産業革命以後急激に増え続けており、これが地球温暖化危機をもたらしています。
地球温暖化危機の解決に向けて2015年に採択されたパリ協定の取り決めに応じて、日本も含めた世界の各国が、2050年脱炭素実現に向けた取り組みを進めています。
昨今よく耳にする「脱炭素」という言葉の意味は、人為起源の二酸化炭素(CO2)の排出量と植物などによる吸収量を釣り合わせて、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。 日本も含めた世界の多くの国々が、2050年に脱炭素を実現すること[…]
漁業の脱炭素化を目指す3つの省庁の提言
以下に3つの省庁の脱炭素に向けた政策提言の内、漁業の脱炭素化に深く関わりのある提言をご紹介します。
経済産業省のグリーン成長戦略
2021年6月、経済産業省が中心となってまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が発表されました。
そのpp.77~78に船舶産業が取り上げられており、漁船も含めた船舶を動かす燃料の脱炭素化に向けた取り組みを論じています。
そこでは、小型の近距離用船舶には、水素燃料電池システムやバッテリー推進システムの普及、大型の遠距離用船舶には水素・燃料アンモニアエンジンの開発が提言されています。
環境省が発表した地域脱炭素ロードマップ【概要】
2021年6月、環境省は、国・地方脱炭素実現会議が作成した「地域脱炭素ロードマップ」の概要を発表しました。
そのp.35では漁村の脱炭素化政策が図解されています。
そこでは、洋上風力発電、波力発電、潮流発電の活用、ハイブリッド電動船舶の導入、燃料の脱炭素化、冷凍冷蔵の省エネ・ノンフロン化、地産・地消による輸送CO2の削減、藻場・干潟の保全・再生による水質浄化や生物多様性の確保、などが提言されています。
水産庁のみどりの食料システム戦略
2021年7月、水産庁は「みどりの食料システム戦略の推進」を発表しました。
そこでは、水産業の脱炭素化に向けた、具体的な政策が提言されています。その内容は、次の見出しで詳しくご紹介します。
水産庁のみどり戦略に見る、漁業の脱炭素化政策
上記のみどりの食料システム戦略においては、調達部門と生産部門に分けて、養殖業と漁業の脱炭素化政策が提言されています。
調達部門における政策
調達部門では、基本的に脱輸入と環境負荷を軽減させる方向で、次の3つの項目に分けて政策が展開されています。
- 養殖業において、人工種苗を用いる完全養殖:種苗生産技術を開発、改良と新規養殖対象魚種を開発
- 新しい養魚飼料の原料を開発:生餌から配合飼料に転換、大豆など魚粉代替原料を使用
- 漁業と養殖業用のプラスチックの資源循環:廃プラスチックの発生を抑制、リサイクル技術を開発、生分解素材を活用
生産部門における政策
生産部門については、養殖業と漁業の内、漁業の脱炭素化に向けた政策を見て行きます。これは次の2つに分けて策定が行われています。
水産資源の持続的利用を目指す政策
ここでは最大持続生産量の達成を目指す新しい資源管理システムを導入するために、次の3つの項目に分けて政策が展開されています。
- 行政機関、研究機関、漁業者による資源調査:漁獲・水揚げ情報、調査船を用いた調査、海洋環境と資源変動、操業・漁場環境の情報
- 研究機関による資源評価:資源量、漁獲の強さなどの評価、資源管理目標の検討材料を提供
- 行政機関による資源管理目標の設定と説明:最大持続生産量達成のための資源水準、乱獲を未然に防ぐための数値
CO2排出量の削減、吸収源の活用を目指す政策
ここでは漁船が排出するCO2の削減と藻場・干潟の保全・再生によるCO2吸収源の活用を目指して、次の3つの項目に分けて政策が展開されています。
- 漁船の推進力の電化、水素燃料電池化:漁船のバッテリー推進化、漁船への水素燃料電池応用の研究
- CO2吸収源としての藻場の活用:ブルーカーボン生態系のCO2吸収量の定量的評価、藻場の保全・再生に関わる技術の開発
- 藻場・干潟の保全・再生:実効性のある藻場・干潟の保全・再生活動の実施
まとめ
以上に述べて来たことの要点をまとめます。
- 脱炭素とは、人為起源の温室効果ガスの排出量を吸収源による吸収量と釣り合わせて、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。
- 漁業の脱炭素化を巡る提言は、経済産業省の「グリーン成長戦略」、環境省の「地域脱炭素ロードマップ」、水産庁の「みどり戦略」に見られます。
- 水産庁の「みどり戦略」に展開されている漁業の脱炭素化政策を詳しくご紹介しました。
カーボンニュートラルとは、人為起源の二酸化炭素の排出量と、大気中の二酸化炭素の吸収量を相殺させることです。今、カーボンニュートラルが注目される理由には、地球温暖化対策と経済性の2つがあります。 地球温暖化の原因となる温室効果ガスの主[…]
参考文献
- 環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/ - 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_honbun.pdf - 環境省「地域脱炭素ロードマップ【概要】」
https://www.env.go.jp/earth/%E2%91%A1%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E8%84%B1%E7%82%AD%E7%B4%A0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%97%EF%BC%88%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BC%89.pdf - 水産庁「みどりの食料システム戦略の推進」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/attach/pdf/210721-6.pdf