漁業の脱炭素化を目指す自治体・企業の取り組み事例を解説

漁業の脱炭素化を図る方法は、第一に「漁船の水素燃料船化」、第二に「吸収源、ブルーカーボンの活用」です。
この記事では、第一に対する企業、第二に対する自治体の取り組み事例をご紹介します。

脱炭素とは

脱炭素の意味は、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(主成分は二酸化炭素[CO2])の人為起源の排出量と吸収源による吸収量を釣り合わせて、排出量を実質ゼロにすることです。

地球温暖化危機の解決に向けて、2015年に採択されたパリ協定の取り決めに応じて、日本も含めた世界の数多くの国々において、2050年脱炭素実現に向けた取り組みが行われています。

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漁業の脱炭素化を実現する2つの柱

漁業の脱炭素化を実現する2つの柱

水産庁が2021年7月に発表した「みどりの食料システム戦略の推進」には、漁業の脱炭素化の2つの柱として、「漁船の水素燃料船化」(CO2の排出量の削減)と「吸収源としてのブルーカーボンの活用」(CO2の吸収量の増大)が挙げられています。

漁船の水素燃料船化

従来の漁船は化石燃料を燃やして動かすエンジンを使っているので、極めて大量のCO2を排出します。
水素燃料船は水素燃料電池を用いる電動船、または直接水素を燃やしてエンジンを動かす仕組みの船なので、CO2の排出量はゼロです。

現段階で、水素燃料電池を用いるバッテリー船は、近距離航海用の小型船舶に対しては既に実用化されています。
しかし漁船も含めた、遠距離航海用の大型船舶に対しては、現在の水素燃料電池は出力が不十分です。
また遠距離・大型船に適用できるような水素を直接燃焼するエンジンも未開発です。

漁船用の高出力水素燃料電池と水素燃焼エンジンの開発が、漁船の水素燃料船化の課題となっています。

CO2吸収源としてのブルーカーボンの活用

ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出す有機炭素化合物が海底に貯留されたものです。

ブルーカーボンを作り出す海洋植物の群落は、ブルーカーボン生態系と呼ばれます。
日本近海ではブルーカーボン生態系の主要部分は、アマモなど、海草(うみくさ)の群落=海草藻場とコンブ、ワカメなど、海藻の群落=海藻藻場です。

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ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く(人為起源のCO2排出量の約30%を吸収)、また、ブルーカーボンの海底貯留期間は数千年と極めて長いため、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目されています。

現在、藻場が消失して行く「磯焼け」の被害が広がっているので、藻場の保全・再生活動が、重要な取り組みとして行われています。

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漁業の脱炭素化を目指す自治体・企業の取り組み事例

漁業の脱炭素化を目指す自治体・企業の取り組み事例

以下に漁業の脱炭素化を目指す企業の取り組み事例を2つ、自治体の取り組み事例を2つご紹介します。

水素燃料船の開発に向けた企業の取り組み、2つの事例

水素燃料船の開発に向けた企業の取り組み事例を2つご紹介します。

商船三井の取り組み

株式会社商船三井は、国立研究法人海上・港湾・航空技術研究所、東京大学大学院新領域創造科学研究科、その他と共同して、2020年11月より、風力と水素を併用するゼロエミッション・ヨット「ウインズ丸」の開発に取り組んできました。

この船は、強風時には、風力を利用して航行し、同時に風力を利用した水中タービンで発電して水素を生産・貯蔵、弱風時には貯蔵した水素による燃料電池で発電して電動プロペラで航行する仕組みです。

日本郵船等5社の取り組み

日本郵船株式会社、東芝エネルギーシステム株式会社、川崎重工業株式会社、一般財団法人日本海事協会、ENEOS株式会社の5つの会社は、2020年9月より「高出力燃料電池搭載船の実用化に向けた実証事業」を開始しています。

これは、高出力水素燃料電池とその船内装備の開発、陸地から船内への水素燃料供給システムの開発を一体化して進める取り組みです。2021年より本船と設備の設計、2023年から建造・製作、2024年には実証運航開始の計画で進んでいます。

ブルーカーボンの活用を目指す自治体の取り組み、2つの事例

ブルーカーボンの活用に向けた2つの自治体の取り組み事例をご紹介します。

横浜市の取り組み

横浜市は早くも2011年度に温暖化対策プロジェクトとして「横浜ブルーカーボン」を立ち上げました。

そして「ワカメの地産地消によるCO2削減事業」や「横浜市域における養殖コンブの温室効果ガスの吸収・固定」などを対象にした横浜ブルーカーボンオフセット制度を運営しています。

また、シンポジウムの開催、横浜市のアマモ藻場によるCO2吸収量の精密測定などの取り組みを行っています。

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福岡市の取り組み

福岡市では、2015年5月、個人の市民、市民団体、漁業関係者、企業、市の行政などが連携して「博多湾NEXT会議」を設立し、「アマモ場づくり」を中心とした博多湾の環境保全活動に取り組んでいます。

また、2020年10月、「福岡市博多湾ブルーカーボンオフセット制度」を創設し、博多湾でのアマモ場の造成活動などで実現されたCO2の吸収量を対象とするブルーカーボンクレジットを販売しています。

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まとめ

以上に述べて来たことの要点をまとめます。

  • 脱炭素とは、人為起源の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。
  • 漁業の脱炭素化を実現する第一の柱は「漁船の水素燃料船化」、第二の柱は「吸収源としてのブルーカーボンの活用」です。
  • 上記、第一の柱に向けた企業の取り組み事例を2つ、第二の柱に向けた自治体の取り組み事例を2つ、ご紹介しました。
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参考文献