ブルーカーボンのCO2吸収量について徹底解説

ブルーカーボンとは海洋植物がCO2を吸収して作る有機炭素化合物で、近年、優れたCO2吸収源として注目されています。
ブルーカーボン生態系の年間CO2吸収量の表し方、またある論文に示された年間CO2吸収量の全国推計のデータをご紹介します。

ブルーカーボンの正体、特徴、課題

ブルーカーボンの正体、特徴、課題

今、ブルーカーボンというものが、優れた二酸化炭素(CO2)の吸収源として注目を集めています。この記事のメインテーマはブルーカーボンのCO2吸収量ですが、後半でご紹介する、吸収量についての研究成果を理解するための準備として、前半でブルーカーボンそのものについてご説明いたします。

ブルーカーボンとは

ブルーカーボンとは、海藻などの海洋植物が大気から海水に溶けた二酸化炭素を吸収して、光合成反応によって作り出す有機炭素化合物です。
ブルーカーボンを作り出す海洋植物をブルーカーボン生態系と言います。

ブルーカーボン生態系の生育する場所は、熱帯や亜熱帯のマングローブ林、藻場(もば)、干潟(ひがた)などの浅海域です。
藻場には、アマモなどの種子植物である海草(うみくさ)が生育する海草藻場と、ガラモ、コンブ、アラメなどの胞子で増える海藻が生育する海藻藻場があります。

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ブルーカーボンの2つの特徴

ブルーカーボンの優れたCO2吸収源としての特徴を2つご紹介します。

ブルーカーボン生態系の高いCO2吸収能力

ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く、単位面積当たりのCO2吸収速度(吸収量/年)はグリーンカーボン生態系の5倍~10倍に当たると言われています。

ブルーカーボンの長い貯留期間

ブルーカーボンは浅海底の泥の中に貯留されますが、ここは無酸素状態のためバクテリアによる分解を受けず、数千年という長期間に渉って貯留されます。

ブルーカーボンの2つの課題

ブルーカーボンが現在、直面している2つの問題点を挙げます。

藻場の消失が進んでいる

現在、世界的に、ブルーカーボン生態系の主要な生育地である藻場の消失が急速に進んでいます。消失の原因の内、最大のものは、沿岸域の埋め立て事業です。他に、植物プランクトンの増殖による海水の透明度の低下や、農薬・工場排水などの有害物質の流入もあります。

ブルーカーボンについての情報の蓄積の不足

ブルーカーボンの優れたCO2吸収源としての特性が注目されるようになったのは、十数年前のことです。従って、ブルーカーボンについては、まだ研究が始められて以後の日も浅く、そのCO2吸収量や生育地の面積などの情報の蓄積が不足しています。

ブルーカーボンのCO2吸収量

ブルーカーボンのCO2吸収量

ブルーカーボンが大気中の二酸化炭素を1年間にどれだけ吸収するか、を示す数値がCO2吸収量です。以下に、この吸収量を表すための、吸収量の定義と、ブルーカーボン生態系の年間二酸化炭素吸収量の全国推計の研究論文の結果をご紹介します。

IPPCのガイドラインに沿った、CO2吸収量の定義

IPPC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)のガイドラインにおいては、

[生態系内で増減した炭素量]=[大気とのCO2交換量]

と見なす方式を提唱しています。
そこで、以下に引用する論文では、CO2吸収量を次の式で定義します。

[生態系の単位面積当たりの年間貯留炭素増加量=吸収係数(トンCO2/ha/年)]×[対象とする生態系の面積(ha)]=[CO2吸収量/年]

つまり生態系に貯留される炭素の増加量をCO2に換算した値が、その生態系が大気から吸収したCO2の量である、と定めるわけです。

研究論文に見る、年間二酸化炭素吸収量の全国推計

桑江 朝比呂(港湾空港技術研究所)他7名の著者による論文より、ブルーカーボン生態系の年間CO2吸収量の全国推計のデータを見てみましょう。
この論文で研究対象としている生態系は、海草藻場(アマモ場)、海藻藻場(ガラモ場、コンブ場、アラメ場)、マングローブ、干潟、です。

  • 海草藻場、海藻藻場の吸収係数については、入手できる国内外のデータ、既往の知見を用いて推定しています。
  • マングローブと干潟の吸収係数については、IPCC湿地ガイドラインに掲載されているデータを用いています。
  • 海草藻場、海藻藻場の面積については、水産庁が2009~2014年に実施した全国調査のデータを用いています。
  • マングローブと干潟の面積は、環境庁が1995~1997年に実施した自然環境保全基礎調査のデータを用いています。

浅海生態系による年間二酸化炭素吸収量の全国推計結果

生態系生態系の面積(万ha)吸収係数(平均値)(トンCO2/ha/年)吸収量(平均値)(万トン/CO2/年)
海草藻場 アラモ場6.24.930
海藻藻場 ガラモ場8.82.724
コンブ場2.010.321
アラメ場6.34.226
17.2 71
マングローブ0.368.518
干潟4.72.612
合計28.3 132
引用元:「浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計」(土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.75,No.1,10-20,2019)

上の結果を見ると、2019年の時点で、全国の、全生態系によるCO2の吸収量の合計は132万トンCO2/年、日本近海では藻場の寄与が主要、吸収係数(単位面積当たりの吸収量)が特に高いのがマングローブ、藻場の中ではコンブ場だが、どちらも面積が少ないので、吸収量はあまり大きくない数値となっている、などのことがわかります。

この論文では、上記の数値は既存のデータを活用して得られた暫定的な数値であり、今後、実測も広げてデータを更に改良して行く必要がある、と述べられています。

また2022年5月に理研ビタミン株式会社より発表された最新の研究成果が大きな反響を呼んでおり、我々ブルーカーボンプロジェクトもさっそく独自にインタビューさせていただきました。

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まとめ

以上に述べてきたことの要点をまとめます。

  • ブルーカーボンは、高いCO2吸収能力と長い貯留期間により、優れたCO2吸収源として注目されています。
  • ブルーカーボン生態系の生育する場所は、海草藻場、海藻藻場、マングローブ林、干潟などの浅海域です。
  • ブルーカーボンについての研究は最近、始められたので、まだ情報の蓄積が不足しています。
  • ブルーカーボン生態系のCO2吸収量は、吸収係数(生体系の単位面積当たりの炭素増加量/年(CO2換算))×生態系の面積、で定義されます。
  • 研究論文「浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計」の年間CO2吸収量の全国推計のデータをご紹介しました。

参考文献