ブルーカーボンは現在、優れたOO2吸収源として注目されています。
この記事では、岩手県におけるブルーカーボンの取り組みの事例を3つ取り上げて、それぞれの内容を詳しくご紹介します。
ブルーカーボンとは
この記事のメインテーマは岩手県におけるブルーカーボンの取り組み事例です。そこで、先ず、ブルーカーボンそのものについてご説明します。
ブルーカーボンの正体
海藻などの海洋植物は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して光合成反応によって有機炭素化合物を作ります。これが海底に貯留されたものがブルーカーボンです。
ブルーカーボン生態系
ブルーカーボンを作り出す海洋植物の群落がブルーカーボン生態系です。
この生態系には、海草藻場(うみくさもば)、海藻藻場(かいそうもば)、マングローブ、干潟(ひがた)などがあります。
ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。 植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素を[…]
ブルーカーボンは優れたCO2吸収源
ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く(人為起源のCO2排出量の約30%を吸収)、またブルーカーボンの海底に貯留される期間は極めて長く数千年に渉ります。
このため脱炭素を目指す現代社会においてブルーカーボンは優れたCO2吸収源として注目されています。
ブルーカーボンとは海洋植物がCO2を吸収して作る有機炭素化合物で、近年、優れたCO2吸収源として注目されています。ブルーカーボン生態系の年間CO2吸収量の表し方、またある論文に示された年間CO2吸収量の全国推計のデータをご紹介します。 […]
岩手県地球温暖化対策におけるブルーカーボン
2020年9月、岩手県環境審議会が「次期岩手県地球温暖化対策実行計画の基本的方向について」という答申素案を発表しました。これにより、岩手県の地球温暖化対策の内容を見てみます。
岩手県地球温暖化対策の3本の主柱
岩手県の地球温暖化対策においては、3本の主柱として、温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの導入、植物による吸収量の増大が設定されています。
そして、この3本の主柱に向けての具体的な取り組みが計画されています。
地球温暖化対策におけるブルーカーボンの推進
ブルーカーボン推進の取り組みとして、他自治体と連携したブルーカーボン認知度向上の取組、講習会等によるブルーカーボンの普及啓発、ブルーカーボンを吸収源として活用するための測定方法の調査と検討が取り上げられています。
岩手県におけるブルーカーボンの取り組み、3つの事例
以下に、岩手県で行われているブルーカーボンの取り組みの事例を3つご紹介します。
普代村の養殖ワカメと養殖コンブの取り組み
岩手県下閉伊郡普代村は岩手県の北東部にあり、太平洋に面して三陸海岸を有する村です。
普代村は2019年2月、2050年脱炭素実現に向けて広域9市町村と共に「北岩手循環共生圏」を結成し、また横浜市と連携協定を締結しました。
普代村ではブルーカーボン生態系に属するワカメ藻場とコンブ藻場の養殖の取り組みを行っています。2020年2月、これらが生産するブルーカーボンが横浜ブル-カーボン・オフセット制度により、クレジットとして認証されました。
これは横浜ブルーカーボン事業の自治体間ブルーカーボン連携の第2弾に当たります。第1弾は宮崎県日向市のアラメ場の養殖を対象としたものです。
洋野町、北三陸ファクトリーのウニ養殖の取り組み
岩手県九戸郡洋野町(ひろのちょう)は岩手県の三陸海岸の最北端に位置する町です。2011年3月11日の東日本大震災の際には津波のために沿岸部の漁業施設が壊滅する被害を受けました。この町の漁業の再生を目指して立ち上げた水産ベンチャー企業「北三陸ファクトリー」は、増殖溝を掘ってウニの放流地「ウニ牧場」を作り、ウニの養殖に取り組みました。
ウニは藻場を食い荒らし、磯焼けの原因とされていますが、そのウニを捕獲して養殖地に移して育てることは、藻場の保全・再生につながる取り組みです。
この取り組みは北海道大学・水産科学研究院の研究者らと連携して行われています。
いま、日本を含め世界中で『磯焼け』と呼ばれる海の環境問題が発生しています。 磯焼けは『海の砂漠化』とも呼ばれ、主として沿岸海域の浅海において海藻・海草が著しく減少または消失し、海底の岩や石がむき出しになっている状態を指します。 […]
岩手大学等の「ブルーカーボンに関する勉強会」の取り組み
2022年6月10日、岩手大学三陸水産研究センター、いわて海洋研究コンソーシアム、釜石市の共済による「ブルーカーボンに関する勉強会」が、岩手大学釜石キャンパスで開催されました。この勉強会の目的は、最近始まっているカーボンオフセット・クレジットの取引を水産業の振興に活用することです。次の2つの講演と質疑応答が行われました。
①ブルーカーボン紹介と水産業への応用について
講師:国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産技術研究所 研究開発コーディネーター 児玉真史 氏
②横浜におけるブルーカーボンの社会実装とこれから
講師:国立大学法人 神戸大学 産官学連係本部 アドバイザリーフェロー 信時正人 氏
まとめ
以上に述べて来たことの要点をまとめます。
- ブルーカーボンとは、海洋植物が大気中のCO2を吸収して作った有機炭素化合物が海底に貯留されたもので、CO2の優れた吸収源として注目されています。
- 岩手県の地球温暖化対策の中には、ブルーカーボンの推進の取り組みが含まれています。
- 岩手県のブルーカーボンの取り組みの3つの事例、普代村の養殖ワカメと養殖コンブの取り組み、洋野町、北三陸ファクトリーのウニ養殖の取り組み、岩手大学三陸水産研究センター、いわて海洋研究コンソーシアム、釜石市の共催による「ブルーカーボンに関する勉強会」の取り組みについて、その内容を詳しくご紹介しました。
インタビューの経緯 2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルの実現に向け、ブルーカーボンの重要性は国内外で急速に認知が高まりつつあります。 そんな中、2022年5月に発表された下記の研究発表[…]
参考文献
- 国土交通省「ブルーカーボンとは」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html - 岩手県環境審議会「次期岩手県地球温暖化対策実行計画の基本的方向について」
https://www.pref.iwate.jp/res/projects/default_project/_page/001/033/073/02keikakuhoukou.pdf - 岩手県「令和2年度県市町村連携推進会議」(会議録PDF)p.21に普代村の報告
https://www.pref.iwate.jp/res/projects/default_project/_page/001/033/210/02kaigiroku.pdf - 横浜市「本市と再生可能エネルギー連携協定を締結している岩手県普代村の養殖ワカメ、養殖コンブのブルーカーボンを取引可能な権利(クレジット)として認証しました」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/ondan/2019/YBC_Fudaimura.html - 北三陸ファクトリー「うに養殖システム」
https://kitasanrikufactory.co.jp/uniyoshoku/