ブルーカーボンとは浅海域に生息する海洋植物がCO2を吸収して作り出す有機炭素化合物で、優れたCO2吸収源として注目されています。
この記事では、このブルーカーボンのCO2吸収源としてのポテンシャルについて解説します。
ブルーカーボンとは
この記事のテーマはブルーカーボンのポテンシャルですが、先ず始めにブルーカーボンそのものについて解説します。
ブルーカーボンの定義
一般に植物は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して、光合成反応により有機炭素化合物を作ります。
海洋沿岸の浅海域において、海草、海藻などの海洋植物が作り出し、その生態系に取り込まれた有機炭素化合物をブルーカーボンと呼びます。
ブルーカーボン生態系
沿岸の浅海域でブルーカーボンを作り出す海洋植物が生育している群落をブルーカーボン生態系と言い、次の4種類があります。
- 海草藻場(うみくさもば):種子植物の海草(アマモなど)が生育している群落です。
- 海藻藻場(かいそうもば):胞子で増える海藻(ワカメ、コンブ、カジメなど)が生育している群落です。
- マングローブ:熱帯・亜熱帯の汽水域(淡水と海水が混ざり合うところ)に生育する植物群落です。
- 干潟(ひがた):潮が引くと砂泥地となり、潮が満ちると海中に没する所が干潟です。
ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。 植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素を[…]
ブルーカーボンは優れたCO2吸収源
次の節で述べるような特性により、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として、脱炭素実現を目指す現代社会において注目を集めています。
陸上生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。かつてはグリーンカーボンとブルーカーボンを区別せず、両者ともグリーンカーボンと呼んでいました。二酸[…]
CO2吸収源としてのブルーカーボンのポテンシャル
以下に全地球規模で見たブルーカーボンのポテンシャルと、日本におけるブルーカーボンのポテンシャルに分けて見て行きます。
全地球規模で見たブルーカーボンのポテンシャル
これから、全地球規模の視点から、CO2吸収源としてのブルーカーボンの特性を見て行きましょう。
ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力
ブルーカーボン生態系の単位面積当たりのCO2吸収速度(吸収量/年)は極めて高く、陸域の森林の5倍~10倍に当たると言われています。
また、海洋が大気中のCO2を吸収する速度も極めて高い値を示します。
全地球規模の1年間のCO2排出と吸収の収支
これは近年の平均値として、次のように見積もられています。
- 人為起源のCO2の大気中への排出量:345億トンCO2
- この内大気圏への残留量:183億トンCO2
- 陸域の植物(グリーンカーボン生態系)の吸収量:70億トンCO2(排出量の20%)
- 海洋全体の吸収量:92億トンCO2(排出量の27%)
- この内、ブルーカーボン生態系が生息する浅海域の吸収量:39億トンCO2
こうして大気中から海水に吸収されたCO2の一部を、海洋生態系が吸収して有機炭素化合物を作ります。
浅海域の面積は海洋全体の面積の1%に満たないにもかかわらず、浅海域が吸収するCO2の量は海洋全体の吸収量の42%にも達することは、この浅海域に生息するブルーカーボン生態系の優れたCO2吸収能力の反映です。
ブルーカーボン生態系の年間CO2吸収量は約2.3億トンCO2(排出量の約0.7%)
2019年に発表された、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル )の「海洋・雪氷圏特別報告書」によると、世界全体のブルーカーボンの気候変動緩和ポテンシャルは、世界全体の温室効果ガス排出量の0.5%程度とされています。
CO2は温室効果ガスの76%を占めていますから、これはCO2排出量の0.66%に当たります。
近年の平均値で世界全体の年間の人為起源CO2排出量は345億トンCO2ですから、ブルーカーボン生態系の年間CO2吸収量は約2.3億トンCO2となります。
ブルーカーボンの海底貯留期間
ブルーカーボン生態系が枯れると、浅海底の泥の中に貯留されます。ここには酸素がないために、貯留された有機炭素化合物はバクテリアによる分解を免れ、数千年と言う長い期間貯留されることになります。
これに対して、グリーンカーボンは陸地の土壌に貯留され、大気に曝されるため、分解を受け易く、貯留期間は数十年~数百年程度です。分解されるとCO2を大気中に排出しますが、このCO2は、元々大気中に在ったものなので、排出は実質ゼロと見なされます。
ブルーカーボンは貯留されたままで分解されないので、CO2も大気中に戻りません。
そのため、ブルーカーボンはネガティブ・エミッション(ゼロではなくマイナスの排出)の吸収源として評価されています。
浅海底に貯留されるブルーカーボンの量は1.4億トンC/年、外洋の深海底に貯留される炭素の量は0.5億トンC/年と見積もられています。
面積は海底全体の1%未満の浅海底に、約73%の炭素が貯留されることになります。
陸上生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをグリーンカーボン、海洋生物の作用により隔離・貯留される炭素のことをブルーカーボンと呼びます。かつてはグリーンカーボンとブルーカーボンを区別せず、両者ともグリーンカーボンと呼んでいました。二酸[…]
日本におけるブルーカーボンのポテンシャル
日本のブルーカーボンのポテンシャルについて、いろいろなデータを検討してみます。
単位面積当たりのCO2吸収速度は、ブルーカーボン生態系が森林の2.5~7.7倍
日本における現在の沿岸湿地生態系の面積は約25万haで、森林の面積(2,500万a)の約1/100に当たります。
次の見出しで引用するデータを用いて、1万ha当たりの両者のCO2吸収速度を比べてみましょう。
ブルーカーボン生態系は上限値で16.2万トンCO2/年、標準値で5.3万トンCO2/年、森林は2.1万トンCO2/年となり、ブルーカーボン生態系の1万ha当たりのCO2吸収速度は森林の2.5倍~7.7倍に当たります。
日本における吸収源別CO2吸収量/年とその推移
日本における、CO2吸収源別の吸収速度について、次の様な見積もりをご紹介します。
日本における人為起源CO2排出量は現在値(2013年)が12.35億トンCO2/年、2030年の目標値は6.77億トンCO2/年です。
*(吸収量の単位は万トンCO2/年)。()内の数値%はCO2排出量に対する割合
引用元:「ブルーカーボン」 – 日本環境アセスメント協会
吸収源 現在の推計値 2030年予測値 ブルーカーボン生態系(上限値) 404(0.33%) 518(0.77%) ブルーカーボン生態系(標準値) 132(0.11%) 157(0.23%) 森林 5,166(4.2%) 2,750(4.1%) 農地土壌炭素 757(0.61%) 793(1.2%) 都市緑化 110(0.09%) 124(0.18%)
現在のブルーカーボンの吸収量は全吸収源の約6%にも満たない値ですが、2030年には森林の高齢化による吸収量の減少と、藻場の保全・再生によるブルーカーボンの吸収量の増加のために、ブルーカーボンは全吸収源の約12%に達すると予測されています。
ブルーカーボンが優れたCO2吸収源として注目される理由は次の3つの特徴を持つからです。 CO2吸収能力が極めて高いこと 長期間、海底に貯留され、大気中にCO2を再放出しないこと CO2の吸収・貯留を自然作用で行うこと […]
まとめ
以上に述べて来たことの要点をまとめます。
- ブルーカーボンとは、沿岸の浅海域の海洋植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出した有機炭素化合物です。
- ブルーカーボンは単位面積当たりのCO2吸収速度が極めて大きいこと、海底に貯留される期間が極めて長いことにより、優れたCO2吸収源として注目されています。
- ブルーカーボンのCO2吸収源としてのポテンシャルについて、世界全体と日本に分けて検討しました。
当サイトでは、ブルーカーボンの解説記事や日本各地におけるブルーカーボンへの取り組み事例の記事を公開して参りました。 この度、熊本県芦北町でアマモ場の再生に取り組む、熊本県立芦北高等学校 林業科の前島和也教諭(以下、前島先生)にお話を[…]
気候変動に大きく関わるCO₂。藻場やマングローブといったブルーカーボン生態系はその吸収源として注目され、四方を海で囲まれた日本では有効活用のための研究が進められています。 この度私たちブルーカーボンプロジェクトは、日本のブルーカーボ[…]
参考文献
- 国土交通省「ブルーカーボンとは」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html - 国土交通省港湾局「海の森 ブルーカーボン~CO2の新たな吸収源~」
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001394945.pdf - 環境省 地球環境局「ブルーカーボンについて」
https://www.env.go.jp/content/900445444.pdf - 環境省「IPCC「海洋・雪氷圏特別報告書」の概要」(p.180)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/special_reports/srocc_overview.pdf - 桑江朝比呂「ブルーカーボンを活用した浅海生態系における気候変動対策」(JEAS NEWS No.170 SUMMER 2021)
http://jeas.org/wp-content/uploads/2021/07/JEAS170.pdf#page=2 - 石丸美奈「グリーンカーボンをめぐる課題とブルーカーボンのポテンシャル」
https://www.jkri.or.jp/PDF/2021/Rep177ishimaru.pdf