脱炭素とは温室効果ガスの排出と吸収を釣り合わせて、排出を実質ゼロにすることです。
この記事では、海が脱炭素に果たす重要な役割について解説します。
脱炭素とは
この記事のテーマは海が脱炭素に果たす役割ですが、先ず脱炭素についてご説明します。
脱炭素の意味
脱炭素の炭素は本来、二酸化炭素(CO2)を指しています。CO2は地球温暖化をもたらす温室効果ガスの主成分です。従って、ここの炭素は温室効果ガスの代名詞となっています。
脱炭素の意味は、人為起源の温室効果ガスの排出量と吸収量を等しくさせて、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。
脱炭素とは、人為起源のCO2排出量と吸収量を等しくさせて、排出を実質ゼロにすることです。 脱炭素が必要な理由は地球温暖化危機を回避するためです。脱炭素を実現する方法には、CO2排出の削減と吸収の促進があります。 脱炭素とは、二[…]
地球温暖化の解決に向けて、2015年に採択されたパリ協定の取り決めに応じて、日本も含めた世界の数多くの国々において、2050年脱炭素実現に向けた取り組みが行われています。
昨今よく耳にする「脱炭素」という言葉の意味は、人為起源の二酸化炭素(CO2)の排出量と植物などによる吸収量を釣り合わせて、温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることです。 日本も含めた世界の多くの国々が、2050年に脱炭素を実現すること[…]
海が脱炭素に果たす大事な役割
青くて広い海が脱炭素を実現する上で大変大事な役割を担っているのです。
全地球規模で見る、年間CO2排出と吸収の収支
全地球規模で見た1年間のCO2の排出と吸収の内訳は次のようになっています。
人為起源のCO2排出量は94億トンC/年
人の活動により1年間に大気中に排出されるCO2は炭素の重量に換算して94億トンC/年です。
海洋が大気から吸収するCO2は25億トンC/年
海洋全体が大気から吸収するCO2は25億トンC/年で、人為起源CO2排出量の26.6%に当たります。この内沿岸の浅海域で吸収される分は10.7億トンC/年です。
海水に吸収された大気中のCO2の一部は海洋生態系に吸収されます。
陸域の植物が大気中から吸収するCO2は19億トンC/年
陸域の植物が大気中から吸収するCO2は19億トンC/年で、人為起源CO2排出量の20.2%に相当する値です。
海底への炭素貯留:河川からの流入が9億トンC/年、浅海域の生態系より1.4億トンC/年、深海の生態系より0.5億トンC/年
陸域の植物が吸収した炭素の内、約9億トンC/年が河川によって海の浅海域に運ばれ海底に貯留されます。
また海洋植物の死骸によって浅海域には1.4億トンC/年、深海域には0.5億トンC/年の炭素が海底に貯留されます。
大気中に残るCO2は51億トンC/年
排出量から海洋と陸域での吸収量を差し引くと、年間約51億トンC/年のCO2が大気中に残る訳です。
大気中のCO2吸収において海が果たす役割
陸域の植物が吸収した炭素の内、河川によって海洋に運ばれる約9億トンC/年は海洋の吸収分に算入されます。
結局、陸域の吸収は10億トンC/年(排出量の約11%)、海洋の吸収は34億トンC/年(排出量の約36%)となり、海洋の吸収が主要な役割を担っていることがわかります。
ブルーカーボンとグリーンカーボン
ブルーカーボンは海洋植物、グリーンカーボンは陸上の植物に関わるものです。
ブルーカーボンとグリーンカーボンの定義
一般に植物は大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収して、光合成反応により有機炭素化合物を作ります。
海洋沿岸の浅海域において、海草(うみくさ)、海藻(かいそう)などの海洋植物が作り出し、その生態系に取り込まれた有機炭素化合物を「ブルーカーボン」と呼びます。
但し、海洋植物全体が作り出し、その生態系内に貯留された有機炭素化合物をブルーカーボンと呼ぶ場合もあります。
一方、陸域の植物が作り出した有機炭素化合物が貯留されたものはグリーンカーボンと呼ばれます。
グリーンカーボンとは陸上の植物が大気中のCO2を吸収して光合成反応により作り出す有機炭素化合物のことです。同じく海洋植物が光合成反応によって作り出す有機炭素化合物はブルーカーボンと呼ばれます。 グリーンカーボン生態系はCO2の吸収、[…]
ブルーカーボンは優れたCO2吸収源
ブルーカーボン生態系のCO2吸収能力は極めて高く、単位面積当たりのCO2吸収速度(吸収量/年)はグリーンカーボン生態系の5倍~10倍に当たると言われています。
また、ブルーカーボンは生態系の死後、最終的に浅海底の泥の中に貯留されますが、ここは無酸素状態なので、バクテリアにより分解されてCO2に戻ることなく、数千年という長期間に渉って貯留されます。
この2つの特徴により、ブルーカーボンは優れたCO2吸収源として、脱炭素を目指す現代社会において注目を集めています。
ブルーカーボンとは、海洋生物の作用により海洋環境に貯留された炭素のことです。 植物は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素を隔離します。陸上の生物が隔離し貯える炭素をグリーンカーボンと呼ぶのに対し、海の生物の作用により貯えられる炭素を[…]
海がもたらす再生可能エネルギー
再生可能エネルギーとは太陽光、風力などの自然力を利用するエネルギー源で、石炭、石油などの化石燃料と違いCO2を全く排出しないので、正に脱炭素のエネルギー源です。
海を利用した再生可能エネルギー、すなわち海洋エネルギーには次の様なものがあります。
洋上風力発電
海の上に風力発電設備を設置して発電させる方式で、風の強い海域が適地です。
波力発電
波の上下運動を利用して空気流を発生させ、これでタービンを回して発電する方式です。波高のある海域が適地になります。
潮流発電
潮の流れを利用して水車を回し、発電する方式です。潮の流れが速い海域が適地になります。
海流発電
海流を利用して水車を回し、発電する方式です。海流のある海域が適地になります。
海洋温度差発電
海の表層の温かい水を汲み上げ、加熱して水蒸気を作り、これを吹き付けてタービンを回して発電する方式です。その後、深層の冷たい水を汲み上げ、水蒸気を冷却して凝縮させます。
日本の再生可能エネルギーによる発電量の総発電量に対する割合は14.5%(2019年度)で、世界ランキングでは49位に当たり、導入が遅れています。この割合を2030年には36~38%に高めて、再エネを主力電源化する計画です。 […]
まとめ
以上に述べて来たことの要点をまとめます。
- 脱炭素とは温室効果ガスの排出と吸収を釣り合わせて、排出を実質ゼロにすることです。
- 大気中のCO2の吸収において海は主要な役割を担っています。
- ブルーカーボンは浅海域の海洋植物が作り出す有機炭素化合物で、優れたCO2吸収源として注目されています。
- 海がもたらす再生可能エネルギーは、洋上風力発電、波力発電、潮流発電、海流発電、海洋温度差発電などです。
ブルーカーボンとは浅海域に生息する海洋植物がCO2を吸収して作り出す有機炭素化合物で、優れたCO2吸収源として注目されています。 この記事では、このブルーカーボンのCO2吸収源としてのポテンシャルについて解説します。 […]
参考文献
- 環境省「脱炭素ポータル カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/#:~:text - 国土交通省港湾局「ブルーカーボン CO2の新たな吸収源」
https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001394945.pdf - 国土交通省「ブルーカーボンとは」
https://www.mlit.go.jp/kowan/kowan_tk6_000069.html - 佐賀県「海エネって?」
https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00331314/index.html